感染症のリスクを正しく理解して拡大防止に努めることが大切

 以上見てきたとおり、天然痘を除いて人類がこれまでに「根絶」できた感染症はない。

 天然痘が根絶できた理由を振り返ってみると、天然痘にはヒト以外の宿主がなく、また感染者は必ず発症するため、潜在的な感染者がおらず、感染拡大防止の対策をとりやすかったこと。それに加えて、天然痘は、種痘をベースにワクチンによる予防法も確立されていたことが根絶のカギとなった。

 だが、一般に感染症ではこれらの条件が満たされない。そのため、最後の一人まで追って根絶することはできず、流行はなかなか終息しない。

 いま、コロナ禍を経て、多くの人が感染症の拡大防止に対する知識を身に付けた。そこには、正しいマスクの着用、3つの密(密閉・密集・密接)の回避、せっけんでの手洗いの実施など、コロナ以外の感染症にも役立つものが数多くある。

新型コロナの緊急事態宣言再延長を受けて記者会見する東京都の小池百合子都知事新型コロナの緊急事態宣言再延長を受けて記者会見する東京都の小池百合子都知事(2021年5月、写真:Pasya/アフロ)

 ただ、「喉(のど)元過ぎれば熱さを忘れる」のことわざ通り、コロナ禍の苦しい思い出は忘れてしまいがちだ。

 現在もコロナウイルス感染症を含めて、さまざまな感染症の脅威が続いている。感染症のリスクを正しく理解して、拡大防止のための予防をしていくことが大切だと言えるだろう。

【参考資料】
『人類と感染症の歴史─未知なる脅威を超えて─』(加藤茂孝著/丸善出版、2013年)
『続・人類と感染症の歴史─新たな脅威に備える─』(加藤茂孝著/丸善出版、2018年)

【篠原拓也(しのはら・たくや】
ニッセイ基礎研究所主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト。1969年東京都生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、1992年に日本生命入社。2014年から現職。保険事業の経営やリスク管理の研究、保険商品の収益性やリスク評価、社会保障制度の調査などを行う。公益社団法人日本アクチュアリー会正会員。著書に『できる人は統計思考で判断する』(三笠書房)がある。