これまでに「根絶」できたとされる唯一の感染症は?

 ここまでいくつかの感染症の現状をレポートしたが、通常、感染症はなかなか終息しない。発症者が多数出現する感染拡大の波が過ぎ去っても、潜在的な感染者がいることが一般的だ。

 潜在的な感染者には、感染したが発症前の人(発症前感染者)、症状が出ない人(不顕性感染者)、症状は出るが医療施設で受診しなくても軽症で治る人(軽症感染者)がいる。こうした潜在的な感染者も、感染力を持つ場合がある。

 これまでに根絶できたとされる唯一の感染症は、天然痘だ。天然痘にはヒト以外の宿主がなく、感染者は必ず発症する。このため潜在的な感染者がおらず、感染拡大防止の対策をとりやすかった。

 種痘をベースにワクチンによる予防法も確立されていたため、天然痘の根絶に向けた取り組みが進められた。WHOは1960年代に、患者を見つけ出して患者周辺に種痘を行う「サーベイランスと封じ込め作戦」を展開して顕著な効果をあげた。そして、1980年に天然痘の世界根絶宣言を行った。

 ただし、一般に感染症を根絶することは難しい。拡大防止策がうまく働いて、最終的に感染症が終息(患者が1人もいない状態)すれば、それに越したことはないが、期待通りにうまくいくとは限らない。