今のようにスキャナが紙の記録を自動で読んでくれるようなこともできません。紙のグラフを一人が読み取り、もう一人が数値を打ち込んでいく。そんな作業でデジタル化しました。一つの強震計の記録を読み取るのに1週間ぐらいかかります。

 そうやって、神戸から淡路島にかけてどれだけ揺れたのか、それは活断層がどんなふうにずれたためなのかを明らかにしていったのです。

かつて地震研究の主流は「予知」、震度予測は傍流だった

――強震計はそんなに少なかったんですか。

入倉 数もそうですし、データの公開状況が全く違い、詳しい記録を手にいれることが大変でした。大手のゼネコンや、東大の地震研究所のような大きな研究機関がそれぞれ少しずつ強震計を置いて記録を集めていましたが、基本的に観測している研究者しか使えなかった。

 私は京大の防災研究所に所属していました。ここは地震研究の拠点でしたが、主流は地震予知でした。強い揺れの研究分野はマイナーで、私自身も駆け出し研究者でしたから、他の組織が持つデータを使わせてもらうのは、なかなか難しかったのです。

 同じ学内でも、十分理解されていたわけではありません。京大でも地震予知に関する観測は充実していました。ただし、これに使う地震計は高感度で、大きな地震が来ると振り切れてしまう。だから高感度の地震計とは別に、大きな揺れを記録する強震計を置いてもらいたかったのですが、地震予知の研究者にはなかなか受け入れてもらえませんでした。

 彼らは、人が感じないような小さな地震を観測して、それで大きな地震がいつ来るか予知しようとしていました。大きな地震が起こってしまえば、予知としては「後の祭り」だから、強震計をおいても、地震予知には使い道がないと思われていたのです。