足元の活断層がずれ動いた時、どれだけ揺れるか、きめ細かく予測したハザードマップが普及したのも、阪神・淡路大震災以降のことだ。大震災前、神戸市の防災計画*4では、揺れの予測は市全域で震度5強とするおおまかなものだった。

 強い揺れを観測したり予測したりする強震動分野の進歩について、入倉孝次郎・京大名誉教授に聞いた。

*4 神戸市地域防災計画 平成4年度 地震対策編

急増した強い揺れの観測点

――阪神・淡路大震災の前後で、観測の状況はどう変わりましたか。

入倉孝次郎・京大名誉教授(以下、入倉) 強い揺れ(強震動)の観測点は飛躍的に増えました。気象庁だけでなく、防災科学技術研究所がK-net(全国強震観測網)*5やKiK-net(基盤強震観測網)*6を全国に展開しています。大きな地震が起きた時、それがどんな揺れをもたらしたか、誰でもすぐに見られるようになっています。

入倉孝次郎(いりくら・こうじろう) 京都大学名誉教授。1940年生まれ。専門は強震動地震学。京大防災研究所長、京大副学長などを歴任(写真は本人提供)
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 阪神・淡路大震災までは、状況は全く違いました。気象庁の地震計は、各都道府県に1、2カ所しかありませんでした。激震地の神戸でも、比較的被害の小さかった山手にある神戸海洋気象台(震度6、神戸中央区)だけでした。

 震度7に相当する「震災の帯」の中には、ゼネコンやライフライン企業などがいくつか強震計を置いていましたが、すぐに記録が公開される仕組みはありませんでした。だから揺れの大きさがわかるまでに時間がかかったのです。

 当時は、まだ記録を紙で出力する強震計が多かった時代です。私たち研究者は強震計を設置していた企業などに一社ずつ足を運んで、紙の記録をもらって、数値化していきました。

*5 全国約1000カ所に約20kmの間隔で設置されている。

*6 全国約700カ所に観測用の井戸が掘られており、地表と井戸の底の双方に強震計が設置されている。