「ナチスの牛タン」は免罪されるか?

 ここで注目していただきたいのは、1942年2月以降、シュトゥットホーフが「国営強制収容所」であったという事実です。

 つまり戦時下のドイツ、飛び地で民族の潮目点だったダンチヒで、少女イルムガルトは手堅い「公務員」として「所長秘書」として就職、1943年から45年にかけて速記タイピスト兼秘書として勤務しました。

 シュトゥットホーフ強制収容所は総計12万人を収容しましたが、そのうち死亡した人は8万5000人。実に70%以上の人が命を落としています。

 そのなかで、イルムガルト被告は、ソ連からの捕虜やユダヤ人をシュトゥットホーフのガス室で殺害したり、他の絶滅収容所へ移送する「すべての所長決済書類の手続きに関与し」たとして、2021年、すでに96歳になっていましたが、1万1412人の殺人と18人の殺人未遂の幇助容疑で起訴。

 弁護側は「被告は自身が犯罪組織の一員とは認識せず、国の施設で、仕事は通常の秘書業務だと思っていた」と無罪を主張します。

 これに対して最高裁は「収容所のほぼすべての書類が、彼女の机を通過。上司がいったい何をしているかを詳細に知りながら、それに加担した」と有罪を認定した。

 ここでどうしても想起してしまうのが、兵庫県の「牛タン倶楽部」です。

 牛タン倶楽部とは、斎藤元彦・兵庫県知事を支えてきた兵庫県庁職員集団につけられたあだ名で、かつて知事が総務省から宮城県出向した時に仲良くなったことに由来しているようです。

 すでに、斎藤元彦知事が、ナチス高官アドルフ・アイヒマンにそっくりの発言を繰り返している様子は、本連載で具体的に示しました

 アイヒマンに相当するのが、強制収容所長のホッペ大佐ですが、アイヒマンが中佐でユダヤ人輸送の効率的な計画を担当したのに対して、ホッペは大佐の収容所長で、ガス室での大量殺人にも直接かかわっている。

 そして当該期間、そのすべての事務処理に「秘書」としてかかわり、殺人を幇助したというのがイルムガルト被告の罪状。

 つまり「公務員として、上司の不法行為に加担」という点で、公益通報を握りつぶす「アイヒマン」と、その不法な命令に従って動いた「牛タン倶楽部」という構造と、重なっていることが分かります。