では、今回の「派閥なき総裁選」はどうなる?

 しかるに今回の総裁選は、岸田首相が1月に自派閥の解消を表明し、その後、多くの派閥が解散を決定したという「派閥なき総裁選」という特徴がある。派閥の「権力ゲーム」であった自民党の総裁選は、その主体であった派閥を欠く「派閥なき総裁選」に初めて臨むものである。

 そこでまず問題となるのは、総裁選に立候補するために必要となる推薦人の数を確保できるかということである。総裁選においては、泡まつ候補が出馬することを防止するという意味から、一定数の推薦人を要件とすることは、1971年以来導入されてきた。

 その後、人数の要件は変化しながら、現在では国会議員20人の推薦人確保が要件となっている。これまでの実態をみれば、これは言外に「総裁選は派閥を基盤とするものである」ということを是認するものであるといえた。またこうした推薦人の要件は、派閥が候補者の数を抑制するという結果となっていたとみてよい。

 そういうわけで、派閥の締め付けがない今回の総裁選では、11人もの政治家が出馬に意欲を示すという状況が生まれている。

 すると、20人の推薦人というのが第一のハードルとなる。これまで派閥に推された候補者であれば、20人の推薦人を確保することは容易であった。しかし「派閥なき総裁選」では、どれほどの候補者が、20人の推薦人を集められるかというのは不透明なところがある。

次期内閣は「選挙管理内閣」

 それは、推薦人になる側の自民党国会議員個人の心理を考えればよくわかる。総裁選で敗北した候補の推薦人となってしまえば、場合によってはその後の閣僚人事を含めた政務三役の人事や、党役員人事で「冷や飯」を食わされる可能性がある。「勝ち馬」に乗ることが政治家個人としては得策であるという判断が優先する。

 また、来年の7月には参院選がある。10月には衆院の任期が満了となる。この9月の総裁選で選ばれた総裁が、これらの国政選挙において「選挙のカオ」となる可能性が高い。

 それらの大型選挙で、自らの当落をかける国会議員もいるわけである。つまり、この総裁が組閣する内閣は「選挙管理内閣」の色彩が強いものとなる。

 国政選挙では、「政策の選択」もさることながら、各党トップの国民的「人気」が勝敗を分けることも多い。つまり、自らの国政選挙での当落をかけて、国民受けの良い「人気投票」に、今回の総裁選はなる可能性がある。

 さらにいえばそもそも、これらの大型の国政選挙で自民党が勝利しなければ、総裁選後の閣僚や党役員のポストも、長く続くものではない。そこで結果としては国政選挙で勝利できるような「国民的人気の高い」候補を選ぶマインドが強く働くこととなる。