【目的2】ロシア軍の補給阻害

 ロシア軍の兵站は、道路も使用していますが、そのほとんどを鉄道輸送に負っています。しかし、ウクライナ軍がスジャを確保したことにより、ロシアは、クルスクからスジャを経由してベルゴロドに向かっていた鉄道輸送が不可能になりました。ベルゴロドには別方向からも鉄道が延びているため、完全に補給が途絶えたわけではありませんが、路線が単線であることを含め、ベルゴロドへの輸送力が相当に低下したことは間違いありません。

ロシアのクルスク、スジャ、ベルゴロドとウクライナのハルキウの位置関係

 ベルゴロドの正面に当たるウクライナのハルキウには、砲撃や爆撃が続いていました。ウクライナ側が苦しめられていた上、この砲撃が再侵攻の準備である恐れもあり、警戒を続けていたのですが、ベルゴロドへの補給を阻害したこと、ウクライナ軍の支配領域拡大で、クルスクからベルゴロドに向かう道路が封鎖される可能性もあることから、ハルキウが再侵攻を受ける可能性は事実上消えたと言ってよいでしょう。

 この観点では、スーミ以上に、ハルキウの安全を確保したという意味で、ゼレンシキー大統領の発言が正しかったとも言えます。

 また、スジャの確保によって、この地域の鉄路での補給を阻害したことは、絶妙なタイミングでした。越境攻撃と時を同じくして、ロシアの鉄道副総裁セルゲイ・コブゼフが部下との会議で、ロシアの鉄道網が危機的な状況にあることを話す音声が流出しています。制裁による高精度のベアリングなどの不足が、いよいよロシアの鉄道を危機的な状況にしていたようです。

 この流出自体は恐らくウクライナ諜報機関の関与があったものと思われ、その信ぴょう性には疑問を持たなければなりません。とはいえ、ロシア領内で頻繁に脱線などの鉄道事故が報告されているため、情報の妥当性は高いと言ってよいでしょう。

 また、スジャ駅を確保したことにより、ウクライナはロシアの鉄道事情に関する詳細な資料を入手したとも言われています。真偽、詳細ともに不明ですが、ドローン攻撃やロシア内のレジスタンス支援を通じて、さらなる鉄道輸送への攻撃を意図している可能性も考えられます。これによってロシア国民の不満を醸成する狙いもありそうです。