年齢で一律に「戦力外」と見なすことの弊害とは?

 しかし、これら年齢で一律に区切る制度にはさまざまな弊害がつきまといます。大きく3点挙げたいと思います。

 まず、前述したように人手不足が慢性化している状況にもかかわらず、人材確保の母数を減らすことになる点です。総務省の労働力調査によると、年齢層別の就業者比率は、この20年で以下のように推移しています(別掲グラフ参照)。


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 早期退職制度などでよく見かける45歳で線を引くと、44歳以下の比率は2003年~2023年の間に52.5%から43.9%へと8.6ポイント減少しています。一方、定年年齢に設定されていることの多い60歳以上は、14.2%から21.8%へと7.6ポイントの増加です。45歳や60歳という年齢で一律に戦力外と見なしたり、44歳以下のみを戦力化しようとすると、人員の母数が減少していく傾向であることが分かります。

 次に、年齢と能力は必ずしもリンクしないことです。44歳が45歳になったり、59歳が60歳になったりした途端に能力が極端に下がるなどということはありません。また、50代になってから新たな技能を身につけようと積極的に実践し努力する人もいれば、20代でも新たな技能の習得に消極的で行動に移さない人もいます。

 最後に、年齢だけを理由に就業機会を奪うことは差別と見なされてもおかしくないことです。現時点では法制度で定年年齢の設定は認められていますが、厚生労働省が公表している「公正な採用選考の基本」の中には、応募者の適性・能力とは関係のない事項で採否を決定しないことの大切さが説かれています。

 仕事における適性・能力は、年齢だけで一律に判断できるものではありません。個人差があります。いまは違法と見なされず、慣例的に多くの職場で受け入れられている考え方であったとしても、一定の年齢を境に適性・能力が失われると決めつけるに等しい定年や早期退職制度の年齢基準などは、差別に該当すると見なされてもおかしくないはずです。