旧態依然とした定年制度を固持し続ける会社の末路

 解雇ルールが整備されていない日本の法制度では、一度正社員として採用した場合は、能力が見合わなくなったとしても雇い続けることになります。しかも、年功賃金によって年を重ねるごとに賃金は上がっていきます。

 もし、定年など年齢で一律に区切る制度をなくせば先に挙げたネガティブメッセージを全て裏返すことができます。すなわち、ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、古い人事システムの刷新に取り組み、若者が生涯にわたって活躍できる可能性がある未来像を提示している会社というメッセージを社内外に送ることができるということです。

 それでも年齢で一律に区切る制度をなくすことができないのは、解雇ルールが曖昧になっている法制度が大きな要因の一つに違いありません。

 解雇権の乱用に配慮した上で、能力が見合わなくなった社員を解雇できる仕組みがあれば、失われる雇用がある一方で、そこに生まれた新たなポジションに合致した能力の人材が採用されることにより、雇用の総数は維持されます。

 職場としては年齢にこだわらず、必要な能力を備えた人材のみを雇うことができます。また、他の職場でも新たなポジションが生まれることになり、能力が合わずに解雇された社員も能力に合致した職場へと移りやすくなります。

 しかしながら、このような法制度の改正を待っている間にも少子化は進み、労働市場は人手不足の色合いをより濃くしていきます。

>>【グラフ】44歳以下のみを戦力化しようとすると人材確保の母数を減らすことになる!(年齢層別の就業者比率)

 年功賃金から脱却し、年齢にとらわれず個々の能力を見定め、定年を廃止しても無理なく人材を戦力化し続ける仕組みを構築できた会社はネガティブメッセージの裏返しに成功し、これからの労働市場の中でより優位になっていくはずです。

 それに対し、定年制度を固持し続ける会社は、もしジョブ型だ人的資本経営だキャリア自律だとHR界隈のトレンドを熱心に追いかけ時代の先端を走っているかのように見えたとしても、旧態依然とした体質を刷新できないという矛盾を抱え続けたまま取り残されていくことになるのではないでしょうか。

【川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)】
ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。