「競争社会」が女性大統領を阻むガラスの天井?

 二つの政党のジェンダー平等についての見解も見ていきましょう。「もし女性大統領が誕生するなら共和党か、民主党か?」と聞かれたら、あなたはどう答えるでしょうか。

 ありがちな予想をすれば、ダイバーシティ推進の民主党と答える人が多いでしょう。

“女性代表”となったヒラリー・クリントンは、同じ民主党内で“黒人代表”のオバマと争い、敗れました。今後「高齢で保守的な白人男性候補」と「若くてリベラルな女性大統領候補」が戦ったらどうなるのか。そんな政治談義をする人もいます。

 米国に女性大統領が誕生していないのは不思議といえば不思議ですが、ジェンダーギャップ指数を見ればわかる通り、米国のジェンダーの平等は欧州先進国に比べてやや遅れています。

 日本よりははるかにマシとはいえ、G7(主要国首脳会議)のメンバーでは低いほうです。その背景には米国の過度な競争のため、休暇を取りにくい実情などがジェンダー平等を妨げている面があるというのが、今の時点での私の仮説です。

 ヨーロッパ人に比べてアメリカ人は休みを取りません。実際付き合ってみるとわかりますが、経営者層など高給を稼ぐエリートの労働時間はあり得ないほど長い。働かないと負けてしまうし、いつクビになるかわからないというワーカホリック的な競争社会です。

 金融業界のエリートにアーリーリタイアを選ぶ人が多いのは、「若くして大金持ちになったから」という理由の他に、「もう限界。これ以上無理」という理由もあるのではないでしょうか。

 CNNの「家族医療休暇制度の後進国のアメリカ」というニュースでは、米国には出産後の有給休暇が皆無、もしくはとても少ないと報じられています。

 シンクタンク、ピュー・リサーチ・センターが2023年3月1日に発表した調査結果によれば、米国では社会的状況などにより、過去20年で男女の賃金格差の縮小ペースは遅くなっていると言われています。

 大統領や副大統領に女性が就任するかどうかだけでなく、社会全般にジェンダー平等が行き渡るために必要な政策は何かといった視点で政党を見ていくことが重要だと思います。(続く)

民主党の大統領候補者となったハリス氏はガラスの天井を破ることができるか?(写真:Andrew Leyden/NurPhoto/共同通信イメージズ「NurPhoto」)民主党の大統領候補者となったハリス氏はガラスの天井を破ることができるか?(写真:Andrew Leyden/NurPhoto/共同通信イメージズ)

山中俊之(やまなか・としゆき)
著述家/芸術文化観光専門職大学教授

 1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にて、グローバルリーダーシップの研鑽を積む。
 2010年、企業・行政の経営幹部育成を目的としたグローバルダイナミクスを設立。累計で世界96カ国を訪問し、先端企業から貧民街・農村、博物館・美術館を徹底視察。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。京都芸術大学学士。コウノトリで有名な兵庫県但馬の地を拠点に、自然との共生、多文化共生の視点からの新たな地球文明のあり方を思索している。五感を満たす風光明媚な街・香美町(兵庫県)観光大使。神戸情報大学院大学教授兼任。
 著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)。近著は『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)。