あからさまに宗教的な本音を語らない米国人

 自社の映画を批判されたフロリダ州にテーマパークを有するディズニーなどから反発の声も高いものの、「LGBTQの権利拡大を食い止めなくちゃ」と思う人たちが、彼を支持しています。

 福音派の信者の数は、一説によると1億人近く。政治的な動向を左右するに十分なボリュームです。そして宗教については、信仰を持っていてもあからさまに語らない人も多くいます。

 たとえば西海岸にも福音派は存在しますが、「神についてどう思う?」などと大っぴらに話さなかったりします。

 確かに米国は個人主義で、意見をはっきり言う国です。日本の俳優だと政治的発言は避けることもあります。米国ではアーティストやスポーツ選手、俳優といった著名人が政治信条を表明し、若者に影響を与えています。

 ただし彼らが“表現者”だからという面も見落としてはなりません。一般論としてアート系の人はリベラルが多く、たとえば現代アートは「アートを通じて社会への問題提起をする」という性質があるため、人種問題やLGBTQについて明言するのは自然なのです。アカデミー賞も人種問題を意識しており、比較的リベラル寄りだと思います。

 しかし、一般の人となれば事情は変わります。「経済や環境問題についてはリベラルだけれど、自分の宗教観から言って同性婚や人工中絶は許せない」と思っている人も確実にいるでしょうし、それを明言するとは限りません。

 また、「経営者としては環境保全よりも規制緩和と自由競争がいいけど、そんなこと言ったら“社会的配慮ができない企業”となって消費者に嫌われる」と考える財界の大物は、バリバリの共和党員でも表向きはリベラルな発言をしかねない。

「女性の権利を尊重する」と口では言いながら、「中絶なんて神への冒涜だ。あり得ない」と胸の内では思っている人も大勢いるのです。

 どちらの政党が有利と簡単に言い切れない理由には、宗教が大きく関係しています。