イスラエルとハマスの対立はなぜ収束しないのか。ロシアのプーチン大統領はなぜウクライナを侵攻し続けるのか──。最新の世界情勢を読み解くには、地政学、宗教、歴史、民族、経済といった「公式」に、政党という「変数」を加えることが必要だ。
「政党を見るという“ミクロの目”を持つと、世界を見るという“マクロの目”も備えることができ、その国や地域の実情が寄り立体的に見える」と語る元外交官で著述家の山中俊之氏が語るアメリカの政党について。
※この記事は、『教養としての世界の政党』(かんき出版)より「アメリカ」部分を一部抜粋・編集したものです。
民主党の人権意識は、宗教を超えられるのか
米国に赴任したことのある日本人の多くは、「現地の人とも付き合いましたけど、トランプ支持者にはあまり会ったことがない」と口を揃えます。確かにニューヨークやサンフランシスコ、ロサンゼルスなど日本人がよく赴任する地域は民主党が強いエリアです。
ダイバーシティが進み、移民の増加と出生率の高さからラテンアメリカ系が増え、白人の比重がどんどん減っています。今後の方向性としては、人種差別をなくす政策の民主党に有利と言えば有利――とは言い切れません。
その理由は宗教、キリスト教福音派の存在にあります。
建国の動機となったキリスト教プロテスタントのうち、福音派の人たちは「進化の過程で海から陸へ上がった生物が哺乳類になり、その延長で人類が誕生した」という進化論よりも、そのような進化論とは対極にある天地創造の聖書の言葉を信じています。
もちろん、人によってグラデーションがあるので、「本当にアダムとイブがいたと思ってるんだよ!」と揶揄されるほどの敬虔な信者もいれば、「さすがにそれはないよね」という信者もいます。
しかし福音派の信者であれば、聖書の記述から解釈されうる「同性婚や人工中絶についての否定」については、「やはりその通りだ」「できれば避けるべきだ」と厳しい意見を持っている可能性は高いのです。
同性婚を法制度として認めている国は20世紀までありませんでしたが、21世紀に入り、オランダを皮切りに次々と合法化。米国でも2013年に連邦最高裁判決で同性婚が容認され、2022年に法制化されています。これを「あり得ない!」と感じた福音派の人たちが、共和党を支持する可能性も出てきます。
たとえばトランプ前大統領の共和党内での数少ないライバルであったデサンティス・フロリダ州知事は、州内でのLGBTQに関する学校教育に対して新たに規制を加えて物議を醸しています。
通称「Don’t say gay(「ゲイです」って言っちゃだめ法案)」と呼ばれるもので、同性に恋をする物語などは教育の場で取り上げるべきではないという考えです。