マンションは建設時に長期修繕計画を立て、それに応じた修繕積立金を所有者から集めて、逐次大規模修繕を実施していく。それができれば、経過年数が長くなっても竣工時に近い良好な状態を維持し、快適な居住性を確保できるうえ、資産価値の維持・向上も期待できる。しかし、現実には、居住者の高齢化などさまざまな要因によって計画的な修繕工事を行えず、急速に老朽化が進んでいるマンションが多い。住宅ジャーナリストの山下和之氏が、マンションの積立金不足の実態をレポートする。(JBpress編集部)
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修繕積立金はなぜ「段階増額方式」が多いのか?
マンションの修繕積立金の積立方式には、25年、30年などの長期修繕計画に必要な費用を計画年次に応じて毎月に割り振り、当初から同じ額を集める「均等積立方式」と、当初は少なめにして段階的に引き上げていく「段階増額積立方式」がある。
均等積立方式だと分譲時の修繕積立金が割高になって購入者の負担が重くなり、販売に不利になりかねないので、デベロッパーとしては避けたいところ。それに対して、段階増額方式は分譲時の修繕積立金を少なくして、その後段階的に引き上げていく方式なので、購入者の当初の負担は軽減され、デベロッパーとしても販売しやすくなるため、段階増額方式を採用するマンションが多い。
国土交通省が5年に1度実施している「マンション総合調査」の令和5年度版によると、全体としては均等積立方式が37.5%で、段階増額積立方式が47.0%だが、均等積立方式はほとんどなくなり、近年ではほぼ段階積立方式が中心となっている。2020年以降竣工のマンションでは、段階増額積立方式が82.3%で、不明などを除くと、新築マンションのほぼ9割は段階増額積立方式だ。
そのため、当初は管理費と修繕積立金の合計が月額2万円、3万円で済んでいたのが、5年後、10年後には4万円、5万円に増えてしまう可能性がある。段階増額積立方式のマンションを買うと、増額は覚悟しておく必要があるのだ。しかも、今後は住宅ローン金利上昇のリスクも高まっているので、当初の負担だけではなく、5年後、10年後の負担まで見据えて購入計画を立て、確実な家計管理を行わなければならない。