「監視リスト」入りをことさらクローズアップする必要はないが、トランプ氏が大統領に復帰した場合、日本の対米黒字を声高に批判するリスクがある(写真:ロイター/アフロ)「監視リスト」入りをことさらクローズアップする必要はないが、トランプ氏が大統領に復帰した場合、日本の対米黒字を声高に批判するリスクがある(写真:ロイター/アフロ)
  • 米財務省が6月20日に発表した為替政策報告書で、日本は為替操作国に関する「監視リスト」に1年ぶりに復帰した。
  • もっとも、日本の対米黒字の大半は第一次所得収支であり「戻らない円」。その多くは自動車産業を筆頭とした米国投資の結果である。
  • 「監視リスト」入りをことさらクローズアップする必要はないが、トランプ氏が大統領に復帰した場合、日本の対米黒字を声高に批判するリスクがある。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

為替政策報告書と監視リスト復帰

 先週来、ドル/円相場は円安方向に騰勢を強め、159円台で推移している。米FRB(連邦準備理事会)高官発言を受けて利下げ観測が後退していることが主たる材料だが、6月20日に米財務省より公表された為替政策報告書において、日本が1年ぶりに「監視リスト」に復帰したことを円安材料と指摘する声も見受けられる。

 しかし、実態を見れば見るほど、そのような解釈には無理がある。

 リスト入りの一報を受け、為替市場では反射的に「円買い・ドル売り介入が難しくなる」との連想が流布されているが、米財務省高官からは同日、「日本の最近の介入は政府によって公表されており、我々が懸念する通貨安の誘導とも反対方向だ」との見解が示されている。

 実際、報告書には今年4~5月の円買い・ドル売り為替介入をとがめる文言はない。

 米財務省による為替政策報告書はあくまで不当な通貨安を通じて米国に競争上の不利益を強いる各国政策を阻止することを企図している。通貨安に悩む国が制裁対象であるはずもないし、なりようもない(後述するように確かに対米黒字は大きいものの、日本企業による米国経済への貢献も非常に大きい)。

 今回、日本が「監視リスト」へ復帰した最大の理由は、2023年の経常収支黒字が3基準のうちの1つに抵触したためである。

 おさらいしておくと、報告書は3つの基準を設けており、2つに抵触すれば「監視リスト」、3つに抵触すれば「為替操作国」という運用がなされている。

 3つの基準は以下の通りだ(調査対象となるのは米国における財・サービス貿易の輸出入総額上位20か国・地域、次ページ図表①)。

①対米貿易黒字の規模:年間150億ドル以上の財・サービス貿易黒字額があること
②経常収支黒字の規模:GDP比3%以上の経常収支黒字。もしくはGDP比1%以上の現在の経常収支と長期的経常収支の間の乖離があること
③為替介入の規模:持続的で一方的な為替介入を行っていること。具体的には、過去12カ月間のうち8カ月以上の介入かつGDP比2%以上の介入総額があること

 今回、日本は①と②に抵触したことで「監視リスト」対象国となっている。