欧州議会選での敗北とフランスの議会解散以降、ユーロ安が続いている(写真:PantherMedia/イメージマート)欧州議会選での敗北とフランスの議会解散以降、ユーロ安が続いている(写真:PantherMedia/イメージマート)
  • 主要通貨の中で一人負け状態が続いていた円だが、マクロン大統領による議会の解散以降、ユーロの下落が目立つ。
  • フランス総選挙で極右が躍進、大統領と首相の所属政党が異なるねじれ状態になり、EUへの遠心力が働くという見方がユーロ安の要因だ。
  • 「フレクジット(フランスのEU離脱)」は市場の先走りだが、長い目で見れば、EUの政策運営が右傾化し、内向きになっていく兆候と言える。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

 6月に入ってから、久しぶりに主要通貨下落の主役が円ではなくユーロに代わっている。

 既報の通り、マクロン仏大統領は6月9日に議会解散を決定し、来る6月30日に総選挙の初回投票、7月7日に決選投票が行われる。現在のフランス国民議会は2022年6月に選出され、任期は5年ゆえ、半分以上(3年)の猶予を残しての解散総選挙ということになる。

 注目度の高さは、ひとえに極右首相の誕生がかかった選挙であるためだ。

 大統領は親EU、首相は極右(≒反EU)という最悪の組み合わせが同国の内政混乱、最終的にはEUにおける遠心力の強まりにつながるとの見方からユーロが手放されている。

 常に極端なシナリオを織り込もうとする金融市場では、2009年以降に繰り返されてきた欧州債務危機の記憶から「極右・極左政党の国政入りはEU/ユーロ離脱懸念に直結」との連想を抱きやすく、今回もフランスのEU離脱(フレグジット)懸念が浮上している。

 もっとも、現状、そうした懸念は市場の先走りである。

 確かに、2017年5月および2022年5月のフランス大統領選挙では、極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が反EUの旗印の下、移民排斥やユーロ脱退を主張して戦った経緯がある。特に、2017年は接戦であり、前年のブレグジット、トランプ大統領当選に続き「3度目のまさか」があるのではないかと注目を集めた。

 しかし、2017年の選挙で敗退したルペン氏は2018年、過去のイメージを払しょくする意味合いを込めて党名を「国民戦線(FN)」から「国民連合(RN)」に改称し、イメージ改変に努めてきた。現在のRNは極右政党でありながら、フレグジットやユーロ離脱を前面に押し出すような極端な主張を展開しておらず、あくまで実現可能性の範囲内でその主張を重ねている。

 そもそも「極右政党が既存政党を追いかける」という構図だった2017年や2022年と違って、今回は極右政党(RN、党首はジョルダン・バルデラ氏)が立ち回り次第で議会の過半数を押さえられそうな状況にある。非現実的な主張で耳目を引く必要性はない。

 図表①にあるように、足許では確かにフランス国債の対独スプレッドが急騰しているが、2015年のギリシャ、2017年のフランス、2018年のイタリアなど、過去に国政選挙とユーロ離脱可能性がセットで注目されていた時代と比べれば、全く現実的な問題ではない。

 現状、フレグジット懸念自体は市場の先走りだが、「極右が勝利する」という一点に限って言えば、当時とは比較にならないほど可能性が高まっているため、後述するような内政運営の混乱を懸念した国債売りという文脈ならば理解できる。

【図表①】

フランスの10年債利回り(対独スプレッド)