今回は期待できない危機感のストッパー

 フランス議会の総議席数は577議席、過半数は289議席である。本稿執筆時点で確認できる英フィナンシャル・タイムズ紙の世論調査に基づけば、RNは「235~265議席」の獲得が見通されており、単独過半数は難しいが、他の保守政党と連携することで多数派形成は可能という状況にある。

 議会が極右勢力に制圧される一方、大統領は中道右派という「ねじれ」(Cohabitation:コアビタション)に陥るというのが現状のメインシナリオだ。

 マクロン大統領は極右台頭への危機感を煽ることで抗戦しているものの、不法移民の排斥を掲げ、反EU路線を全面に押し出したフランス第一主義はパンデミックと戦争、その結果としての高インフレで疲弊した世論にしっかり刺さっており、趨勢を覆すのは難しそうである。

 過去の国民議会選挙や大統領選挙においては極右台頭への危機感がストッパーとなり、初回投票で敗北した候補の支持者が大統領支持に回ることも多かった。フランスに限らず、多くの加盟国で極右・極左が台頭した際も最終的には自制心が発揮されてきた。

 しかし、今回は様相が異なる。第一党になるであろうRNに対し、他の極右政党や中道右派政党が連携を模索する可能性が報じられている。もちろん、RNが第一党になっても、連携交渉が上手くいかず、過半数を押さえる会派が誕生しないという極めて不安定な展開もあり得る。現時点でシナリオを決め打ちするのは難しい。

 当面の金融市場はどうなりそうか。

 フランス国民議会の解散決定後、ユーロ相場が急落しているのは最も極端な展開(フレグジット)を材料視している結果と思われるが、フランス政局が材料として台頭した初期反応でもあり、徐々にトーンダウンすることを予想したい。

 再三述べているように、欧州債務危機以降、金融市場が何度も経験してきたEU政治の危機と比べれば、今回のRNがEUやユーロからの離脱という尖鋭的な主張を展開しているわけではなく、行き過ぎた懸念は不要である。