- 欧州連合(EU)の政策執行機関、欧州委員会はフランスやイタリアなど7カ国に対する過剰財政赤字手続き(EDP)を始めるよう、欧州理事会に勧告した。
- ウクライナ情勢などを踏まえEUの財政規則は緩和されているが、それでも財政赤字や政府の債務残高が基準を上回ったのだ。
- フランス議会の第一党になる極右政党は拡張財政路線を掲げており、フランスの格付け悪化を基点とした欧州金融市場の変調が懸念される。
(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
6月19日、欧州委員会はフランスとイタリアなど加盟7カ国(フランス、イタリア、ベルギー、スロバキア、マルタ、ポーランド、ハンガリー)が域内の財政規則を超える財政赤字を抱えていることから、是正措置である過剰財政赤字手続き(EDP: Excessive Deficit Procedure)の開始を欧州理事会に勧告した。
前回のコラム「EU離脱観測まで浮上、金融市場が不安視するフランス総選挙とその後:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/81705」でも確認したように、拡張財政路線を主張するフランスの極右政党・国民連合(RN)が議会を掌握する展開が視野に入る中、金融市場としては無視できない問題に発展する恐れがある。
EUの財政規則はパンデミックや戦争を受けて適用が一時停止されていたが、2024年から運用が再開される。EUの財政規則は2020年より見直しの議論が進められ、昨年12月に合意。今年4月から新規則が発効している。今回の措置は新規則の下では初ということになる。
EDPはかつては日常茶飯事であったが、多くの市場参加者にとって久しぶりの事態である。簡単に新旧の規則をおさらいしておきたい。
EUの財政規則とは
まず、規則の原則自体は大きく変わっていない。
大まかに原則のおさらいをしておくと、①マーストリヒト基準(一般政府の財政収支対がGDP比▲3%、債務残高対GDP比60%)に則り、②欧州セメスター(半期)において欧州委員会が加盟国の予算や中期財政運営を審査・評価した上で、③規則からの逸脱が認識されればEDPの開始を勧告する、という3段階が設定されている。
基本的に金融市場は①に注目することが多い。
ちなみに、欧州セメスターとは端的に「1~6月」を指しており、加盟国が翌年度の予算編成に取りかかる7月に入る前に欧州委員会が加盟国の政策を精査し、勧告するという手続き全体を指している(要するにEUの意向を各国の予算編成に反映させるための期間と言えるが、その拘束力は強くない)。
今回は欧州セメスター終了のタイミングでEDPの開始を求められる加盟国が7カ国存在したという判断になる(厳密に言えば、②における中期財政運営は秋に提出されたりするゆえ、すべてが1~6月の判断材料になるわけではない)。
では新規則の修正点は何か。すべてを説明すると極めて微細ゆえ、ラフに説明してみよう 。