「統計上の黒字」をクローズアップする意味は?

 過去を振り返ると、2016年4月の「監視リスト」導入以降から2022年6月まで、日本は①と②の条件に抵触してきた。昨年の報告書はパンデミックや戦争を受けた一時的な貿易収支赤字の急拡大に影響を受けた2022年の経常収支を評価対象としていたため、①の条件が一時的に外れていただけである。

【図表①】


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 日本以外でリストに入ったのは中国、台湾、ドイツ、マレーシア、シンガポール、ベトナムであり、日本以外は前回と同じ面々であることを思えば、それだけ日本の経常収支が外的ショックに脆弱である実情を映しているようにも思える。

 ちなみに、中国については通関記録と経常収支が不一致という統計の正確性について初めて言及があったことも目を引いた。

 経常収支黒字が復元したことで再び「監視リスト」対象国になったわけだが、本コラムで執拗に議論してきた通り、日本に関し「統計上の黒字」をクローズアップし過ぎることはミスリーディングの極みである。

 経常収支黒字のほぼすべてが第一次所得収支黒字であり、その大きな部分が外貨のまま国外へ残り、それゆえにキャッシュフロー(CF)ベースで見れば経常収支赤字になっている可能性すら疑われるのが今の日本だ。

 第一次所得収支とは、対外金融債権・債務から生じる利子・配当金などのこと。簡単に言えば、親会社と子会社との間の配当金や海外投資で得られる利子・配当金である。

 昨年春に筆者が提起したこの問題意識はいまや様々な場所で検証されるに至っているが、「実際のCFがどれほどか」ということについて議論は様々あるにせよ、「『統計上の黒字』を額面通り受け止めるのは危うい」という点に異論は少ない。

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 しかも、国・地域別に言えば、日本の約+35兆円にのぼる第一次所得収支黒字に関し、最大の源泉は米国である。