辞職願を提出後、記者会見する静岡県の川勝平太知事=4月10日午後、静岡県庁(写真:共同通信社)
  • リニア建設に反対していた静岡県の川勝平太知事の辞任で、後任の知事は2025年度中にも建設工事を許可するのではないか。
  • 川勝知事は大井川の水資源問題は解決していないと主張してきたが、主要課題について静岡県とJR東海は基本的な合意に達しており、許可しない合理的な理由はない。
  • 川勝知事はあえて失言して辞任することで、後任に許可を託したように見える。開業時期のカギを握るのは、南アルプストンネルをはじめとする長大山岳トンネル群だ。

(梅原 淳:鉄道ジャーナリスト)

 静岡県の川勝平太知事は4月10日、県議会議長に辞職願を提出し、5月9日に辞職する見通しとなった。4月1日に執り行われた静岡県の新入職員向けの訓示で、職業差別とも受け取れる発言が批判を浴び、責任を取った形だ。

 川勝知事は失言が多く、「またか」との声も聞かれたが、筆者の考えは少々異なる。普段から発言が注目されている点を踏まえ、川勝知事は意図的に失言して自ら職を辞そうと決意したのではないかと筆者は感じたのだ。
 
 ご存じのとおり、静岡県内を通るJR東海のリニア中央新幹線南アルプストンネルの工事によって大井川の水資源が失われるとして、静岡県とJR東海との間に溝が生じている。現時点でも川勝知事は静岡県内の区間の建設工事を認めていない。

 川勝知事は静岡県民を守り、静岡県の環境を守り、さらに言うと大井川流域の農業や製造業を守るために賛否が分かれる施策をとってきたのだ。したがって、知事の威信をかけて守ってきた存在をまさか訓示でおとしめるはずがない。川勝知事はやめざるを得ない状況をあえてつくり出して、後任の知事にリニア中央新幹線の建設工事の認可を託そうとしたと筆者は考える。

 と言うと多くの人は驚くであろう。たとえば、静岡県が2024年3月7日に更新したホームページ「懸念1 トンネル湧水による大井川の水資源への影響」を見ると、大井川の水資源問題は解決には程遠いように見えるからだ。

 しかし、南アルプストンネル完成後の河川流量減少問題については、JR東海が同トンネルから大井川へ導水路を建設することで静岡県の理解は得られた。川勝知事はこの件についても問題は解決していないかのように言っているが、静岡県の関係者に聞いても、そして両者を仲介した国も一応の合意が得られたととらえられている。