「1カ月に400m以上掘ることが可能」

 ともあれ、北品川非常口から等々力非常口を目指してスタートしたシールドマシンが掘るべき残る距離は8.2km-0.130km=8.07kmとなる。このペースで一体いつ完成するのかJR東海に聞いたところ、本格的に掘削できるようになれば1カ月に400m以上掘ることができるとの回答が得られた。仮に1カ月400mというペースで2024年6月から掘削が本格的に開始され、途中休まずに掘り続けられれば残る8.07kmは1年8カ月余りの2026年2月に掘り終えられる。その後、大急ぎで線路の敷設などを行えば2027年2月には完成だ。

 もちろん、この先もシールドマシンが途中で止まる事態が予測される。ただし、シールドマシンが1カ月に400mも掘り進められるのはそう荒唐無稽な予測ではない。

 軟弱な地盤に苦しめられながらも2023年3月27日に開業した福岡市交通局の地下鉄七隈線天神南―博多間1.6kmでは、シールドマシンが570mの区間を3カ月で掘削したというので、1カ月に190m進んだこととなる。三角州の福岡市よりは東京都、神奈川県の地盤は良好と見られるから、2倍のペースで掘削するというJR東海の見立ては間違っているとは言えず、さらにペースを上げられるかもしれない。

 なお、第一首都圏トンネルの他の工区でも1基につき約3.2〜約8.8kmの掘削を担うシールドマシンが北品川工区のように試験的に掘削して、本格的な掘削に備えて待機している。北品川工区を掘り終わらないと他の工区の建設工事に着手できないということはない。

 これは岐阜県駅(仮称)と名古屋駅との間の長大な地下トンネル、第一中京圏トンネル(延長34.21kmのうち約19.8kmがシードトンネル区間)でも同じだ。

 となるとやはり完成時期の鍵を握るのは神奈川県駅(仮称)―山梨県駅(同)間にある藤野トンネル(延長10.449km)、御坂笹子トンネル(同14.613km)、山梨県駅(同)―長野県駅(同)間にある南アルプストンネル(同25.019km)、伊那山地トンネル(同15.3km)、長野県駅(同)―岐阜県駅(同)間にある中央アルプストンネル(同23.288km)、岐阜県駅(同)―名古屋駅間の日吉トンネル(同14.532km)といった長大な山岳トンネル群だ。

 いまのところ、これらのトンネル群のなかで山梨リニア実験線内の御坂笹子トンネルを除いて、本坑どころか先進導坑も完成したとのニュースは聞かれない。一部で本坑の掘削に着手されているとはいうものの、先進導坑が貫通したと示されていないのだ。

 それでも2020年代の終わりになれば完成するトンネルも現れるであろうが、やはり未着工の区間があるだけに南アルプストンネルは完成時期を見通すことができない。

 新幹線の建設工事において駅舎の工事が終わる前に開業を迎えるケースはまれに生じるが、トンネルだけは完成しないことには開業は無理だ。南アルプストンネルの着工次第で開業時期が予測できるとだけ言っておこう。

(訂正履歴=2024/5/1 22:00:リニア中央新幹線のトンネル工事について、記事中のデータの一部に誤りがありました。最新の発表も踏まえ、データは更新済みです)

梅原 淳(うめはら・じゅん)
1965(昭和40)年6月6日東京都生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入社。その後、 雑誌編集の道に転じ、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000(平成12)年からフリーランスの鉄道 ジャーナリストとして活動を開始する。現在は書籍の執筆や雑誌への寄稿を中心に、講義・講演やマスメディアでのコメント活動、鉄道に関して行政や自治体が実施する調査への協力なども精力的に行う。