日本企業で史上2番目の大型買収案件

 近年の大型M&Aとしては、武田薬品工業が2018年に欧州の製薬大手・シャイアー社(本社アイルランド)を約6兆8000億円で買収した事例があります。また、昭和電工(現レゾナック)による日立化成の買収(2019年)と、日立製作所による米IT企業・グローバルロジック社の買収(2021年)も買収金額はともに9000億円台の大型案件でした。

 みずほ銀行の調査によると、日本製鉄によるUSスチールの買収金額はこの間に位置し、日本企業としては史上2番目の大型案件とみられます(ファンドによる買収などを除く)。

 会社を日本製鉄に売却することについては、USスチールの経営陣もこれを決定済みです。USスチールのウェブサイトはすでに日本製鉄のロゴも冠した共同サイトとなり、トップ画面には「MOVING FORWARD TOGETHER AS THE BEST STEELMAKER WITH WORLD-LEADING CAPABILITIES」(世界最高の鉄鋼メーカーとして共に前進します)と明記。今週12日の株主総会で議決を得られれば、今年9月までに手続きを終えたい考えです。

出所:USスチールのウェブサイト

 ただ、強力な組織力と政界への影響力を持つ全米鉄鋼労働組合(USW)は子会社化に伴って合理化が進むとみて、強く反発してきました。米国第一主義を掲げるトランプ氏が反対を表明しただけではなく、労働界を支持基盤とするバイデン大統領も今秋の大統領選に向けて支持基盤を固めたいことから、この買収計画には難色を示しています。

 そうした背景にはUSスチールが米国を代表する企業であり、100年以上の歴史を持つ老舗企業であることも無関係ではありません。1871年にドイツ統一を成し遂げたビスマルク首相はかつて「鉄は国家なり」と語ったとされています。USスチールにも、世界最強国を鉄で支えてきた歴史があるのです。