従業員はピークの20分の1

 USスチールの栄光は第2次世界大戦後、次第に衰えていくようになります。粗鋼生産のピークは1953年の3580万トン。戦争で痛手を被っていた欧州や日本の鉄鋼メーカーが生産能力を回復させていくと、同社の力はさらに衰えていきます。中国や韓国などのメーカーにも後れを取るようになりました。

 衰退の最も大きな要因は、技術力の遅れだったとされています。USスチールは長年、コークスを燃料として鉄鉱石を溶かして鉄鋼製品を製造する「高炉」を用いてきました。高炉の設備は大規模で、多様なニーズに細かく応じていく生産には必ずしも向いていません。

 後発メーカーの多くが電極(電気)を使って鉄のスクラップを溶解して製品を造る「電炉」を駆使したこともあり、高炉メーカーのUSスチールは衰退していきました。

 日本製鉄への売却を決めた昨年、USスチールの従業員は1万5000人弱。ピーク時の20分の1程度です。粗鋼生産量は欧州事業を含めても1449万トン、世界27位にとどまっています。1990年にはニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の対象から外れ、90年守ってきた地位をウォルト・ディズニー社などに明け渡しました。

 ただ、かつての勢いを失ったといっても、USスチールが米国にとって重要な存在であることに変わりはありません。バイデン大統領も「(USスチールは)国内で所有・運営される米国の鉄鋼企業であり続けるべきだ」との見解を示しています。

 一方、日本製鉄は米国側の懸念を拭うために「この事業は米国経済の利益になる」「対中国の経済安保を強化する」「労組との約束は遵守する」などと強調。米国側の理解を得ながら、買収に向けた作業を着実に進める考えです。