アクセルとブレーキを同時に
アベノミクスが開始される直前まで、1997年に消費税率を3%から5%に引き上げたのをきっかけに、日本経済は15年間にわたって物価が下がり続けるデフレに苦しんできた。ところが、2013年4月からアベノミクスが始まると、消費者物価指数はするすると上がり始め、2013年12月には、ほぼ2%という目標物価上昇率に達している。そして、ほぼ2%の物価上昇率が2014年3月まで継続したのだ。経済政策の結果がここまできれいに現れることはきわめて珍しい。それだけ、金融緩和・財政出動という政策が正しかったということだ。
それはある意味で当然だ。マクロ経済学の教科書には「不況になったら、金融緩和と財政出動をしなさい」と書いてある。つまり、アベノミクスは特殊なことをしたのではなく、まさに教科書どおりの経済政策を採っただけだったのだ。
ところが、2014年4月に消費税率を5%から8%に引き上げた途端、事態は急変する。物価上昇率が、目標物価上昇率の2%から急速に転落して、1年足らずでデフレに舞い戻ってしまったのだ。アベノミクスは、消費税増税によって破壊されたのだ。
私はわけがわからなかった。金融緩和を継続するなかで消費税増税をするということは、アクセルを踏みながらブレーキを踏む運転に等しい。そんなことをしたら、クルマは正常な動きができなくなってしまう。経済学の常識に反する経済政策が採られた理由を、私は理解できないでいた。