参院予算委に臨む岸田首相(左)と鈴木財務相=2023年11月29日(写真:共同通信社)参院予算委に臨む岸田首相(左)と鈴木財務相=2023年11月29日(写真:共同通信社)
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 財務省主導の緊縮財政に警鐘を鳴らした著書『ザイム真理教』が大きな話題を呼んだ、経済アナリストの森永卓郎氏。その続編とも位置づけられる新著『書いてはいけない――日本経済墜落の真相』(三五館シンシャ)が、前作から約10か月の時を経て刊行された。この間、岸田政権は所得税減税を目玉とする経済対策を実行。森永氏はここにも「財務省への忖度」があると指摘する。
 2023年12月にすい臓がんステージ4の宣告を受け、現在療養中の森永氏。「命のあるうちにこの本を完成させて世に問いたい」。そう記した新著『書いてはいけない――日本経済墜落の真相』より一部を抜粋・再編集し、お届けする。(JBpress)

アベノミクスとはなんだったのか?

 財政緊縮派、すなわちザイム真理教信者の皆さんが、ほぼ例外なく批判するのがアベノミクスだ。そこで、まずアベノミクスとはいったいなんだったのかを説明しておこう。

 2012年12月に発足した第二次安倍晋三政権は、アベノミクスを掲げて日本経済のデフレからの脱却を図ろうと、政策の大転換をした。

 ①金融緩和、②財政出動、③成長戦略の3本柱だった。

 3番目の「成長戦略」に関しては、たいした中身はなかったし、そもそも成長戦略は民間が作るものなので、政府がやれることは限られている。だからアベノミクスの本質は「金融緩和」と「財政出動」だ。

 実際に安倍元総理は約束どおり政策を断行した。財政出動もある程度実施した。たとえば、GDP統計で見ると、実質公的固定資本形成(公共投資)の前年比伸び率は、2011年度が▲2.2%、2012年度が1.1%だったのに対して、実質的に第二次安倍政権のスタートとなった2013年度は8.5%と、近年ではもっとも高い伸びを実現した。

 そして、アベノミクスでとくに注目を集めたのが金融緩和だった。それまで常に緊縮指向だった日銀を改革するため、安倍政権は2013年3月に日銀総裁に黒田東彦氏を就任させ、政策の大転換を図った。いわゆる異次元の金融緩和だ。長引くデフレから脱却するため、2013年4月からインフレターゲット政策を導入し、2%の物価上昇率目標が達成されるまで、大規模な資金供給拡大を続けることを宣言したのだ。

2013年、大規模な金融緩和策を記者会見で説明する黒田東彦・日銀総裁(当時、写真:共同通信社)黒田東彦・日銀総裁(当時)による異次元緩和は「黒田バズーカ」と呼ばれた(写真:共同通信社)
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 安倍政権の金融緩和・財政出動政策がどのような効果を発揮したのかは、その後の消費者物価の動きを見れば明らかだ。

 次ページの図表は、異次元金融緩和が始まった直後の消費者物価指数の前年同月比を月別に見たものだ。

森永卓郎(もりなが・たくろう)氏:1957年、東京都生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。1980年に東京大学経済学部を卒業後、日本専売公社(現在のJT)に入社、予算を握る大蔵省(現・財務省)に「絶対服従」のオキテを強いられる。その経験を原点として、「財政均衡主義」という教義のもとカルト化する財務省に斬り込んだ『ザイム真理教』がベストセラーに。本書では、四半世紀に及ぶメディア活動で見聞きしてきた、“3つのタブー”に挑み、その背景に存在する「真相」を描き出す。2023年12月、ステージ4のがん告知を受ける(写真:共同通信社)森永卓郎(もりなが・たくろう)氏:1957年、東京都生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。1980年に東京大学経済学部を卒業後、日本専売公社(現在のJT)に入社、予算を握る大蔵省(現・財務省)に「絶対服従」のオキテを強いられる。その経験を原点として、「財政均衡主義」という教義のもとカルト化する財務省に斬り込んだ『ザイム真理教』がベストセラーに。本書では、四半世紀に及ぶメディア活動で見聞きしてきた、“3つのタブー”に挑み、その背景に存在する「真相」を描き出す。2023年12月、ステージ4のがん告知を受ける(写真:共同通信社)
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