テレビのスイッチを入れると、正月の特別編成が終わったはずなのに、2時間、3時間のスペシャル番組ばかり——。こう感じている人がいるかもしれない。実はテレビ局にとって長時間の特番は、視聴率低下を回避するために欠かせないツールになっているのだ。その戦略は今のところ成功しているようだが、手放しに喜べない課題もある。視聴率戦争における番組の長時間化戦略はいつまで続くのだろうか。
(岡部 隆明:就職コンサルタント、元テレビ朝日人事部長)
各局の編成が問われた「地震の報道特番か正月向けの特番か」
元日の能登半島地震を知らせる緊急地震速報と震度7の揺れにより、NHKと民放は即座に通常の番組から地震の状況を伝える報道特別番組(報道特番)に切り替えました。これは報道機関としての使命を果たすために当然の対応です。
その後、地震発生から約5時間が経過した午後9時の時点で、そのまま地震の報道特番を続ける放送局と、バラエティーやドラマの正月特番に戻るところとに分かれました。
テレビ東京は午後6時半頃にバラエティー番組にいち早く切り替え、午後9時に日本テレビがバラエティー番組、テレビ朝日がドラマ『相棒 元日スペシャル』、10分遅れて、フジテレビがバラエティー番組というように、地震特番から正月特番に戻しました。NHKとTBSは地震特番を続けていました。
災害や大きな事件・事故が発生して、緊急かつ重要であるという判断で各放送局が通常番組から報道特番に切り替えるタイミングは、ほとんど時間差がありません。しかし、報道特番をいつまで続けるのか、何をもって通常の番組に復帰するのかは難しい判断です。
報道の緊急特番に切り替える、そして、通常の番組に戻す、という判断をするのは、放送局では一般的に「編成」と呼ばれる部署です。CMを放送して売り上げの責任を負う営業部門としては、今回の報道特番を見ながら、通常番組への復帰について、やきもきしながら編成判断を待っていたと思います。
編成には「天の声」が下ることも
テレビ朝日の社員から聞いた話では、ドラマ『相棒』に戻す判断は「ギリギリ10分前くらいに天の声があった」ということです。編成という部署ではなく、経営レベルの難しい判断だったことや切迫していた様子が窺えます。
『相棒』はテレビ朝日の元日の定番であり、日本テレビは翌日に『箱根駅伝』の中継を予定しているから、早く通常運転に戻したい思いが復帰を早めたのではないかと想像していました。