日本経済はコロナ禍が一段落して回復途上にあり、デフレ脱却への胎動もある。にもかかわらず、民放は広告収入の落ち込みが激しく、全国に点在するローカル局は特に厳しい経営状況に直面している。救済策の1つとして、中継局などの放送設備をNHKと共同利用し、その費用にNHKの受信料を充てる議論が進んでいる。もともと悪評が高い受信料を民放のローカル局の経営支援に使うことを国民が望んでいるのか。「放送の維持・発展」を掲げる裏に、NHKと民放の既得権益を守りたい思惑ばかりが浮かび上がる。
(岡部 隆明:就職コンサルタント、元テレビ朝日人事部長)
ローカル局は赤字のオンパレード
こんな悪い数字を見たことがない。
私のテレビ朝日の後輩は、このところ会うたびに、営業売上が良くないことを嘆いています。番組と番組の間に放送される「スポットCM」の売り上げが厳しく、「自分が営業を担当していた頃と比べて15~20%くらい落ち込んでいる感覚だ」と言います。
遠藤龍之介民放連(日本民間放送連盟)会長は11月22日の会見で、「スポットはローカル局も含めて、概ね厳しいようだ」と述べました。その上で、「各社とも経営的には非常に厳しい状況だが、変化の時代をチャンスととらえ、放送人すべてが知恵を出し合い、新しい道を開きたい」と危機感を表しました。
日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、それぞれの系列局について2023年度上期の決算を見ると、傘下の109社のうち、約6割が単体決算で営業赤字でした。赤字の放送局は全国に満遍なく広がっていますが、38年ぶりに日本一となった阪神タイガースの快進撃で盛り上がった関西地区でさえも、朝日放送(テレビ朝日系)、毎日放送(TBS系)、関西テレビ(フジテレビ系)が営業赤字になっています。
ローカル局のなかでも、東北地方は瀕死の状態です。東北6県には4つの系列で22社ありますが、18社(81.8%)が赤字でした。人口減少と高齢化が急速に進む東北地方は、広告収入に基づく民放のビジネススキームが成立しておらず、深刻な経営状況です。
視聴率ビジネスはもう限界に
「構造的な問題」と言うほかない。
放送行政に詳しい、キー局に勤めるA氏は、赤字企業が続出している現状について、このような言葉で一刀両断しました。「コロナ禍が一段落して、全般的な広告市況が平常時であるにもかかわらず広告収入が伸びないのは、視聴率を使ったビジネスが限界に来ているのだろう」と憂慮していました。
こうしたローカル局の苦境に対して、2022年と2023年に放送法と電波法を改正し、総務省、NHK、民放が一体となって、救済に向けた2つの仕組みを構築しました。