(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
>>全国高校スケートで優勝した高校時代から、現役最後のレースまで、小平奈緒選手の軌跡(写真23枚)
今年の正月は大変なことになった。
元日早々に能登半島が大地震に襲われ、痛ましい被害を出している。羽田では航空機同士が衝突し、あわや大惨事なるところだった。
物心ついて以来、こんな正月は初めてだった。
青空のように爽快な本だった
そんな中、今年最初に読んだ本、つまり「初読み」した本は、小平奈緒の『Link』(信濃毎日新聞社)だった。これがじつに、青空のように爽快だったのである。
世界が不安や不快なことで満たされるなら、どんな小さなことでもいいから、自分で気分を一新するしかないが、この本はまさにうってつけだった。
金と権力は持っているが、心根が薄汚い人間が多くなっている現在、『Link』は、まだ美しい心を持ったまっとうな人間がいるという希望を抱かせてくれる本である。
しかし考えてみれば、わたしは小平奈緒というスケート選手を意識したことは、2018年の平昌(ピョンチャン)五輪までほとんど記憶にないのだ。
スピードスケートはそれなりに興味があったから、以前からテレビで中継があるときは見ていた。ただ主として男子の500mに興味が集中し、黒岩彰、黒岩敏幸、堀井学、清水宏保、長島圭一郎、加藤条治らの名前を憶えている。
アメリカにはエリック・ハイデンという選手がいて、500m、1000m、1500m、5000m、10000mの5冠を独占するという怪物だった。
それに比べると、女子選手への関心はすこし低かった。第一人者は橋本聖子だったが、わたしは他のファンとおなじで岡崎朋美だった。他には、大菅小百合や、中学生で騒がれた高木美帆くらいだ。
なぜ小平奈緒の印象が薄かったのか。