2018年の平昌五輪で、小平は世界記録保持者として1000mのレースに臨んだが、2位に終わった。そのことに「悔しい」という気持ちはあまりなかった。
しかしレース後のウィニングランで、金メダルのテルモルスはオランダのメディアの前で大喜びをし、銅メダルの高木美帆はひとり先にいってしまっている。
「レース後は仲間とたたえ合う時間を持つことが、ウィニングランだというイメージを持っていた」小平は、「何か違うよな」という違和感を感じたのである。
けれど、それはしかたがない。小平の考え方が独得なのだ。
ほとんどの選手は、自分の喜びを表すことが1番、国の威信を誇示するのが2番目だ。しかし小平は、このとき決意したのである。もし私が500mで金メダルを獲ることができたなら、ウィニングランは絶対に仲間と健闘をたたえ合う時間にしようと」
それが美しい写真につながった
そしていよいよ女子500mの決勝だ。わたしにとって、小平奈緒はこのとき鮮明に出現したのである。
小平の走りは鮮烈だった。金メダルを獲った。
地元開催で、なおかつ五輪3連覇がかかっていた世界記録保持者のイ・サンファ(李相花)は、小平のライバルであると同時に親友だ。小平は内心「サンファ頑張れ」と応援していたが、サンファは銀に沈んだ。
表彰式、授与式といろいろあったが、格別の喜びはなかった。「一番嬉しかったのは、レース後のウィニングラン。競い合った仲間たちやサンファとお互いをたたえ合えたことです」と小平は書いている。
同書には、小平が、韓国旗を持ったサンファを抱きかかえているあの美しい写真が掲載されている。小平は日の丸を背負っているが、写真ではよく見えない。
「『たくさんの重圧の中でよくやったね。私はあなたをリスペクト(尊敬)しているよ』と伝えました。サンファは『私もあなたを誇りに思う』と言ってくれました」
※参考記事
「そよ風のような存在に」小平奈緒選手の真意とは(2022.2.23)