萬歳と漫才:張り扇からハリセンへ

萬歳」とは「太夫」と「才蔵」と呼ばれる2人が1組になって正月などおめでたい席に歌と踊りを披露する伝統芸です。

 多くの場合「太夫」は扇子を、また「才蔵」は必ず「小鼓」を持ち、太夫が扇を手に祝詞を読むのを才蔵がチャカポコチャカポコとツヅミを打ちながらはやかすのが基本の芸風。

 古くは奈良時代の「万歳楽」までつながるという話もありますが、なにせ証拠が残っていないので、起源はよく分かりません。

 ですが現在でも「三河萬歳」や「尾張萬歳」などの伝承は各地に残っており、伝統の片鱗は知ることができます。

 扇子をもって「太夫」が真面目なことをいうと、ツヅミを持った「才蔵」が可笑しなことを言ってはぐらかす・・・。

 今日でいう「ボケ」の原形。

 これに対して「太夫」が、手にした扇で「才蔵」の頭をピシャリと叩いて「エエかげんにシナサイ!」でオチが着く。

 このような元来の牧歌的な萬歳にご興味の方は、砂川捨丸(1890-1971)中村春代(1897-1975)(「捨丸・春代」)の動画などをご覧いただくとよいでしょう。 

 上のリンクでは約10分の高座でまず最初の4割、4分20秒周辺で「胸へのドツキ」が見られます。

 次いで4分50秒周辺、真ん中あたりで、頭を素手で叩くところまでエスカレートし、佳境に入った7分18秒あたりと8分近辺の2回、扇子で派手に捨丸師匠のおでこを春代師がハリ倒して観客が沸く。

「序・破・急」という能狂言の基本に則して、客の笑いを取っているのがはっきりと分かります。こういう「ドツキ」は否定されるようなものではなく、狂言同様、長らく伝えられてしかるべきものでしょう。

 ここで使われている「張り扇」は、伝統的にお能の稽古などで拍子をとるのに見台などを叩くものです。

 こんなもので相手の頭など叩いてはいけないわけですが、そのお行儀の悪いことをやって、笑いを取っている。

 とりわけ捨丸・春代の場合、女性の春代師が男の捨丸師匠をぶっ叩くという、当時の男性優位だった日本社会の日常を転倒するところに爽やかな「笑い」があった。