「恵みによって生かされている」
私たちはどう生きるべきなのだろうか。
「己が何のために生きているかと問うことは徒労である。人は人のために働いて支え合い、人のために死ぬ」*4
「人生の目的は自分が幸せになること」という現代の日本人の生き方に対し、「人のために」生きるのが人の道だというのだ。そんな潔い生き方にはあこがれるが、そのためにはどうすればよいのか。
「私のメッセージは平凡である。目をこらして何が虚構で、何が事実かを見つめ、世の流れに惑わされぬことである。人の欲望は限りなく、どこにでも不満と不幸を見いだす。しかし、私たちは自分で生きているのではなく、恵みによって生かされているのだ」*5
私たちは自分で生きているのではなく、恵みによって生かされている……。この言葉をかみしめたいと思う。
私たちはともすると、人間の力を過信して自然への畏怖を忘れ、自分のエゴをむき出しにして、“私”を支えてくれる無数のご縁に気付かない。私たちが、大いなるものの“恵み”によって生かされていることにあらためて思いをいたす時、失われた“精神性”や“道徳”を取り戻し、人と人、人と自然との関係を本来あるべき姿に正すことができるのではないだろうか。
私は今の日本人が、中村哲医師のメッセージをあらためて学ぶべきだとの思いから、『中村哲という希望』(佐高信氏との共著)を先日上梓した。新たな年明けにあたり、日本と自らのありようを考える縁となれば幸甚である。
*1:『西日本新聞』への寄稿(2000年8月26日付)より
*2:『西日本新聞』への寄稿(2000年8月8日付)より
*3:『西日本新聞』への寄稿(2000年7月8日付)より
*4:『ペシャワール会報』(2011年7月13日号)より
*5:『西日本新聞』への寄稿(2000年8月31日付)より
【高世 仁(たかせ・ひとし)】
ジャーナリスト。1953年、山形県生まれ。早稲田大学大学院法学研究科修了。日本電波ニュース社入社後、バンコク、マニラ支局長、報道部長を歴任。97年2月、横田めぐみさんらしい日本人女性を北朝鮮で目撃したとの亡命者の証言をスクープ。98年、報道番組の制作会社ジン・ネットを設立して代表に就任。テレビ朝日系「サンデープロジェクト」、TBS「報道特集」、日本テレビ「きょうの出来事」などで番組を取材・制作する。現在はフリーのジャーナリストとして活動中。
著書に、『スーパーKを追え』(旬報社)、『拉致―北朝鮮の国家犯罪』(講談社文庫)、『金正日「闇ドル帝国」の壊死』(光文社)などがある。2023年12月25日には最新刊『中村哲という希望―日本国憲法を実行した男』(佐高信氏との共著、旬報社)が発売された。
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