「日本人には人を思いやる心がある」は幻想なのか
先日、友人が定年で長年勤めた会社を退職し、ねぎらいの酒宴が開かれた。その席で、同年輩の友人が「おれたちは逃げ切れるよな」と言うと、多くが笑いながら相槌を打った。それを聞いて、ある週刊誌に「五十代は逃げ切り世代か」という特集が載っていたのを思い出した。
“逃げ切り”とは、社会保障の破綻など、近未来に予想される“国難”を自分は見なくてすむということだ。この言葉には、「人生の目的は自分(だけ)が幸せになること」で、「死んだらオシマイ、生きているうちにせいぜい楽しもう」という利己的で刹那的な人生観が露骨に示されている。わが亡き後に洪水は来たれ、である。
中村医師はずいぶん前から、自分のことしか考えない日本の風潮を嘆いていた。
「『自分の身は針でつつかれても飛び上がるが、他人の体は槍で突いても平気』という人々が急増している」*1
私も日本人の一人として耳が痛いが、実際に私たち日本人の他人への無関心、無配慮は、「エゴイスト」と批判されてもしかたのないところまで来ているようだ。