ここで、冒頭の話に遡る。日本で一番有名な昔話でありながら、海外にもその類話がある桃太郎であれば、きっと面白い絵になるだろう。

タンザニアの画家アブダラ・サイーディ・チランボニさんが描いた桃太郎とお供。お供はタンザニアに生息する動物たちとなった(C)Abdalla Saidi Chilanboniタンザニアの画家アブダラ・サイーディ・チランボニさんが描いた桃太郎とお供。お供はタンザニアに生息する動物たちとなった(C)Abdalla Saidi Chilanboni

 候補の画家達とはZoomでパソコン越しに顔を合わせたが、事前に企画概要と桃太郎の物語を自分で翻訳した原稿を送付していたので、言葉のハードルはありながらも打ち合わせは順調に進んだ。ただ、筆者には一つだけ懸念があった。それは、画家達が自分で桃太郎をインターネットで調べて、オリジナルをコピーしてしまうことだった。

 そこで、桃太郎の話を知らない画家を選び、画家の皆さんには、「作業中も絶対にインターネットで桃太郎は調べないこと」という条件に同意してもらった。今の時代、インターネットで手に入らない情報はあまりない。地球の反対側にも、今自分が何をしているかを動画付きで伝えられる。非常に便利な世の中になり、意思疎通も容易になったが、その一方で、未知のものに対する空想力を働かせられなくなっている現状もある。

 今回のプロジェクトは、昔話をテーマにしており、それこそ数百年前に思いを馳せる取り組みだ。情報が遮断された中で惹き起こされるインスピレーションの面白さを大事にしたかったのである。その思いが画家達に伝わるかどうかがプロジェクトの成否を決める、と思っていた。

 しかし、結論から言えば、杞憂に終わった。画家の皆さんはしっかりと趣旨を理解して下さった。英語でうまく通じていないなと思ったら、手元の翻訳機を使いながらコミュニケーションを取った。特に、細かな指定やお金に関する話は、間にネイティブスピーカーの知人を挟むことで余計なトラブルを防ぐように努めた。そうした工夫を重ねた結果、大きなトラブルなく絵の完成までこぎつけることができた。

 そしてどのような絵が描かれたか。プロジェクトで何が得られたか。国ごとの「Momotaro Project」の実際の成り行きは、新潮社フォーサイトの次のページでお読みください。

どんぶらこ、海を渡る――外国の画家が「桃太郎」を描いてみたら|第2部・インドネシア「バトゥアン絵画」&イラン「ミニアチュール」

どんぶらこ、海を渡る――外国の画家が「桃太郎」を描いてみたら|第3部・タンザニア「ティンガティンガ」&プロジェクトを終えて

※展覧会『世界の桃太郎展~どんぶらこ、海を渡る~』京都文化博物館での展示は終了。来年1月に岡山、3月に東京でも開催予定。

徳永勇樹
(とくながゆうき) 総合商社在職中。東京大学先端研創発戦略研究オープンラボ(ROLES)連携研究員。1990年7月生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本語、英語、ロシア語に堪能。ロシア語通訳、ロシア国営ラジオ放送局「スプートニク」アナウンサーを経て総合商社に入社。在職中に担当した中東地域に魅せられ、会社を休職してイスラエル国立ヘブライ大学大学院に留学(中退)。また、G7及びG20首脳会議の公式付属会議であるY7/Y20にも参加。2016年Y7伊勢志摩サミット日本代表、2019年Y20大阪サミット議長(議題: 環境と経済)を務め、現在は運営団体G7/G20 Youth Japan共同代表。さらに、2023年、言語通訳者に留まらず、異文化間の交流を実現する「価値観の通訳者」になるべくNGO団体Culpediaを立ち上げた。

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