(文:大西康之)
2018年の楽天モバイル設立、20年の携帯サービス本格参入から現在に至るまで、楽天グループは「無謀な携帯参入さえなければ優良企業」との評価に晒されてきた。基地局建設には膨大な設備投資が必要であり、契約件数の伸びに比して急ピッチで膨らみ続ける有利子負債は確かに懸念すべき問題だが、それでも楽天グループとその代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏は日本が負のスパイラルから抜け出すために不可欠なロールモデルだと、『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)を上梓した大西康之氏は強調する。なぜか。4年以上にわたる取材をもとに、その挑戦する力の源泉に迫る。
「楽天グループ最終赤字1399億円 1~6月、携帯事業重荷」(日本経済新聞8月10日付朝刊)
「楽天解体寸前」(週刊ダイヤモンド8月5日号)
今年の夏まで、新聞、雑誌、ネットメディアでは「楽天、経営危機説」が盛んに喧伝されてきた。増え続ける設備投資となかなか増えない契約件数。その結果としての2022年12月期まで4年連続の最終赤字と、25年までに控える8000億円規模の社債償還。株価の下落。こうした数字が「危機説」に現実味を与えた。
筆者は23年8月末『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)という本を出したが、多くの人々から「楽天ってヤバいんでしょ。こんな本書いて大丈夫?」と心配された。
だが楽天モバイルを4年以上にわたって追いかけてきた筆者には「このプロジェクトはうまくいく」という確信があった。
「携帯の仮想化」を実現
まず技術的な裏付けだ。楽天モバイルが採用している携帯ネットワークの「完全仮想化」はこれまで、ITのあらゆる分野で実現してきたことの延長線上にある。
一番わかりやすいのはワープロである。最初に登場したワープロはキーボードで入力した文字を日本語に変換し、それを印字する「ハードウエア」だった。だがハードのワープロは絶滅し、今、我々が使っているのはマイクロソフトの「ワード」やジャストシステムの「一太郎」といったソフトウエアだ。それを動かす機器はパソコンでもスマホでも構わない。無料のワープロソフトも数多く出回っている。このような、ハードからソフトに置き換わる現象を「仮想化」と言う。
楽天モバイルの完全仮想化は、インド最大の携帯電話会社、リライアンス・ジオ・インフォコムで仮想化に取り組んでいたタレック・アミン氏という天才エンジニアと、三木谷社長の出会いから始まった。通信業界では技術を知る人間ほど「携帯の仮想化はまだ無理」と言っていたが、楽天モバイルはこの仕組みで現実に動いている。
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