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表立った抗議活動が難しい中国だが、それでも若者たちは自分たちの意見を表明する手段をさまざまな文化からの影響を昇華させて編み出しており、「白紙運動」もその一つの結実だという(写真:AP/アフロ)表立った抗議活動が難しい中国だが、それでも若者たちは自分たちの意見を表明する手段をさまざまな文化からの影響を昇華させて編み出しており、「白紙運動」もその一つの結実だという(写真:AP/アフロ)

(文:楊駿驍)

日本のマンガやアニメが世界中の若者に受容されるとともに、その感性やコミュニケーションの作法も知らぬ間に「輸出」されている。マンガやアニメを楽しむなかで、中国になかった「ツッコミ」というコミュニケーション手段を知った若者たちは、画一的な未来を押し付ける社会に抗う感性を編み出したという。

 中国における、日本のマンガ・アニメ・ゲームといったコンテンツの人気はとどまるところを知らない。

 二十数年ぶりに公開された「スラムダンク」の劇場版が中国で130億円以上の興行収入を叩き出し、30~40代の間で一大社会現象となったし、新海誠の映画は10~20代のより若い世代からそれ以上の人気を集めている。

 日本のゲームも熱烈に支持されており、「『ペルソナ5』が天下一のゲームならば、『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』は天そのものだ」と語る中国のトップアイドルの会話もミームとして流行した。

 その人気は単に受容において現れているだけでなく、中国自身のコンテンツ制作にも大きな影響を与えている。

 例えば、世界中で人気を博している『原神』『崩壊:スターレイル』といったオンラインゲームはまさに日本のアニメ調のグラフィックであり、欧米ではしばしば日本のゲームとして誤認されるほどである。

 中国では、『原神』のゲーム音楽で踊りを披露した中学生が校長に「日本文化を宣揚するとはどういうことだ」と烈火のごとく怒られる動画が出回り、「『原神』はれっきとした中国産ゲームだ」とゲーマーたちが怒って炎上したこともあった。

 しかし、日本のサブカルチャーの中国における影響はコンテンツのみにとどまるものではない。独自性を持つ文化的なコンテンツは、同じく独自性を持つ文化的なインフラによって支えられるものである。日本のコンテンツはそれ独自の「情報」のインフラによって支えられている。そのインフラはコンテンツの内容だけでなく、感性やコミュニケーションの作法といった側面で強い影響力を発揮することもあるのだ。

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