ボロい高齢者住宅をアトリエに変えた理由
5つの部屋が連なった長屋は老朽化が進んでおり、雨樋から草が生えているような状態だった。当然、このままでは誰も住まないので、取り壊す方向で話が進んでいた。でも、西村町長の哲学は「あるものを活かす」。「古いから壊す」という発想が違うと思った西村町長は町長就任後、親和荘を残すことにした。
その後、さまざまな人と検討した結果、古い建物には手を入れず、そのままアトリエとして活用することに決めた。
作風にもよるが、アーティストは作品をつくるために、塗ったり切ったり組み立てたりとさまざまな作業をする。そのための場所は広ければ広いほどよく、少々の汚れなど気にせず使える自由な空間がいい。
その点、親和荘は5つの家が並んでいる長屋で、作業スペースは広い。しかも、ボロいので多少、ペンキで汚れても問題はない。そこで、アトリエが最適と考えたのだ。
「新しく建てるのであれば、福岡市でもどこでもできますよね。でも、ここにある、久山にしかない親和荘に魅力を感じて来る人が地元の人と交流する。そういうことがしたかったので、ここは手をつけずに残しました」。そう西村町長は打ち明ける。
現在は日本建築をテーマにした作品を世界に発信している鎌田友介氏と、彼の友人のアーティスト2人が親和荘を活用している。鎌田氏は毎日、福岡市内の自宅から久山まで通っている。
住民との交流についても、他のアーティストがシルクスクリーンを得意にしているため、トートバッグにシルクスクリーンでプリントするワークショップなどを開いているという。


