日本の「ウユニ塩湖」と言われる父母ヶ浜(写真:共同通信社)

 香川県三豊市──。もともと農林漁業が中心の静かな街だったが、日本の「ウユニ塩湖」とも形容される父母ヶ浜がインスタ映えする撮影スポットとして話題になり、注目を集めている地域だ。父母ヶ浜がバズッた結果、2016年に5500人だった観光客は、コロナ前の2019年には45万人と激増した。

 観光客が増えるにつれて移住者も増えており、築80年の古民家を改装した体験型宿泊施設「UDON HOUSE(うどんハウス)」や一棟貸しの宿泊施設「URASHIMA VILLAGE」、市民大学「瀬戸内暮らしの大学」の開校、酒蔵のリノベーション、地域の人のための飲食店など、様々なプロジェクトが立ち上がる賑やかな街になっている。

 そんな三豊で、新しいプロジェクトが始まっている。定額乗り放題サービスを提供する「暮らしの交通」だ。人口が減少している地域が抱える大きな課題は移動の足。その課題を解決するために、地元のタクシー事業者など13社の共同出資で設立されたモビリティの会社である。

 全国的にも課題となっている「住民の足」問題にどのように対峙しているのか。2022年10月に、現役大学生という立場で社長に就任した田島颯氏に話を聞いた。(聞き手:篠原 匡、編集者・ジャーナリスト)

──「暮らしの交通」が始めた定額乗り放題サービスとは、どのようなサービスなのでしょうか。

田島颯氏(以下、田島):僕たちは「mobi(モビ)」というサービスを提供しています。乗り合いが生じるタクシーと考えてもらえれば、わかりやすいかもしれません。

 例えば、篠原さんがmobiを使うとして、アプリで乗りたい場所を選べばバスが来て目的地まで連れていってくれます。そのまま他の利用者がいなければストレートに目的地まで行きますが、途中で別の人が利用した場合、その人をピックアップした上で目的地に向かう。

 その場合、AIが最短ルートを計算しますが、次に乗る人の目的地次第では、自分の到着が後になることもあります。乗り合いが起きると到着時間が延びてしまいますが、ドア・ツー・ドアのタクシーに比べればはるかに安く、路線バスよりは早く着く。バスとタクシーの中間のようなサービスです。

──どのくらいの大きさのバス?

田島:8~9人乗り。それが常時2台、街の中を走り回っているイメージです。朝晩は1台増車するので、2.5台かな。実際の運行は、地元のタクシー会社に委託しています。

「暮らしの交通」の定額乗り放題サービス「mobi」

──どういった方が利用しているのでしょうか。やはり高齢者ですか?

田島:いえ。現状の利用者数は月にのべ3000~4000人ですが、そのうち60~70%が学生です。その次が観光客で、高齢者はさらにその次。市内にある香川高等専門学校(高専)の学生が使っていますね。600人の学生のうち200人は使っているんじゃないかな。

 ある程度、高専の学生が利用すると思っていましたが、3分の1も使うというのは想定外でした。利用料は、乗り放題のサブスクが月6000円、ワンタイムの利用が1回500円。ただ、学生の場合はサブスクの利用料を半額の3000円に設定しているので、それで利用しているんだと思います。

 築80年の古民家を改装した体験型宿泊施設「UDON HOUSE(うどんハウス)」。観光客の増加に伴って、地元の人や移住者が始めるプロジェクトも増えている(写真:共同通信社)
こんな美しい写真も撮影可能。インスタ映えする風景に、観光客は100倍近くも増えた(写真:アフロ)

──移動ニーズがあるのは高齢者だと思っていました。

田島:もちろん、高齢者の移動ニーズも大きいのですが、今回は戦略的にスマホユーザーを狙いました。こういったテクノロジーを活用した移動サービスを導入する場合、行政は高齢者をターゲットにすることがほとんどですが、スマホでの利用が前提になるので、なかなか使ってもらえないんです。

 それもあって、まずはスマホを使う層、特に若い人をターゲットにして、その後にコールセンターを整備して高齢者に訴求するという順番にしました。現状では、電話での申し込みも受け付けられるようになっているのですが、高齢者の利用はまだ多くはありませんね。

──それはどうしてでしょうか。