久原本家に継承されるまちづくりの哲学

 時代が変わり、人々の価値観が変わる中で、久山町が大切に残してきたものが再評価されている。その環境を求めて移住する人も増えており、さまざまなプロジェクトが生まれている。

 個別の動きについては「ニッポン辺境ビジネス図鑑」の中で詳しく触れているので割愛するが、先人が残した遺産を継承し、それを今の時代に合わせてアップグレードしようとしている久山町のまちづくりは時代の最先端を走っている。

 現に、この6月には持続可能なまちづくりを促進する国際連合人間居住計画(ハビタット)の関係者が視察に来た。途上国における都市のあり方が課題になる中で、久山のまちづくりに一つの解があると感じているのだろう。

 こういった久山町のまちづくりは、当然、久原本家にも継承されている。

 実は、西村町長は毎年、久原本家の新入社員に久山町のまちづくりについて話している。8年前、まだ魅力づくり推進課の係長だった時に、河邉社主に頼まれて始めたものだ。その後、西村氏は町長になったが、今年も29人の新入社員の前で話した。

 久山のまちづくりと久原本家の商品づくりは根底でつながっている。だからこそ、地元出身でまちづくりを担う西村氏に依頼したのだろう。この新人研修、今は久原本家の新入社員と町役場の新規職員の合同研修である。

 久山のような自然環境を取り戻すことはできない。でも、久山のような哲学は持つことができる。まちづくりや地方創生ではとかく再現性が議論になるが、久山と同じことは誰にもできない。重要なのは、形ではなく、そこに至る考え方とプロセス──。久山を訪れて、そう感じた。

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