久山町では認知症患者が減り始めた

 久山町は、久山町研究で得られたデータを基に、住民に対する健康指導を強化している。そのために「Kencom」というアプリもDeNAと開発した。生活習慣病の予防と健康の維持・増進を図るための健康管理アプリである。

 Kencomでは、健康診断の結果や過去からの経年変化に加えて、生活習慣病の予防や改善のためにすべき運動、「ひさやま元気予報」などの情報を確認することができる。

 ここで言う「ひさやま元気予報」は、生活習慣病について、現在の健診データを基に、5年後、10年後、15年後の発症リスクを予測、提示するサービス。同年代と比べて発症リスクが高ければ「雨」、要注意であれば「曇り」、健康的な生活を送っていれば「晴れ」という具合だ。そして、「4000歩歩こう」など、その人にあった改善策を提示してくれる。

 発症リスクの予測やシミュレーションは、久山町研究で得られた成果を基に算出している。

 こういった健康指導を進めたことで、住民の健康は確実に改善している。

 例えば、高齢化とともに問題になっている認知症。久山町でも2000年代になると、認知症になる住民が増加し始めた。その要因を調べていくと、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の人、あるいは日々の生活で活動量の少ない人ほど認知症になりやすい傾向があるということがわかった。

 また、食生活の面でも多様性のある食習慣、具体的に言えば洋食のような主食偏重型でなく、米を中心とした副食多食型の食生活をとっている人の方が認知症になりにくいということも明らかになったという。

 そこで、健康指導を強化したところ、2017年の検査で認知症患者の増加が頭打ちになり、2022年の最新データではついに減少傾向が見られた。

「認知症が予防できるかどうかは学術的にも議論のあるところですが、健康習慣を変えれば、認知症は予防できる可能性があるということわかったのは大きい」。久山町研究を主導する九州大学医学部の二宮利治教授はそう指摘する、

 60年という長きにわたって大規模な健康診断を続けてきた久山町と九州大学医学部。その成果を町の政策や住民の健康管理に役立てることで、住民の健康な暮らしに寄与してきた。久山町は「世界に兼行する健康の町」という看板を掲げているが、その看板に偽りはない。

 そして、最後の「教育資本」である。