8月15日、光復節の式典で演説する尹錫悦大統領(写真:代表撮影/AP/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

日本批判一色だった光復節演説が激変

 8月15日は韓国では光復節(日本の終戦記念日、韓国の独立記念日)と称され、独立国としての韓国、それまで韓国を支配していた日本との関係を考えるうえでの大きな節目の時となっている。

 そして当然ながら、その記念式典で大統領が何を述べるかは、国民的な大きな関心事になっている。

 韓国の尹錫悦大統領は昨年8月15日、就任後初めてとなる光復節演説を行い、元徴用工などの歴史問題で悪化した日韓関係について「普遍的価値を基盤に両国の未来と時代的使命に向かって進めば、歴史問題もきちんと解決できる」と述べた。

 尹大統領はさらに、日本を「世界市民の自由を脅かす挑戦に立ち向かい、共に力を合わせなければならない隣国」と位置づけ、1988年に当時の小渕恵三首相と金大中大統領が署名した日韓共同宣言を継承し、「韓日関係を早期に回復させ、発展させる」と強調した。

 これは歴代大統領の光復節演説とは相当な方向転換をしたものだった。それまでの大統領は、歴史認識を巡る日本政府の対応について常に批判的に言及してきた。尹大統領はそれを一変させたのだ。

 当然ながら国内では摩擦も起きた。野党「共に民主党」は「屈辱外交」と非難し、ネット上でも「光復節に親日メッセージを出した」と揶揄された。当時の尹大統領の支持率は20%台であり、そうした中での思い切った発言であった。

 さて今年の光復節演説は、どうなったか。昨年の演説の流れを汲みつつ、過去1年間の日韓関係の実績を反映し、これから本格的にパートナーとして協力していこうとの意欲に富んだものとなった。日本については、「われわれと普遍的価値を共有し、共同の利益を追求するパートナー」「韓日両国は安全保障と経済の協力パートナーとして未来志向で協力・交流しながら、世界の平和と繁栄に共に寄与していけるだろう」と述べた。