強い人事権で“追い出し職務”に異動させられることも

 また、中には成果主義のことをジョブ型雇用だと誤解しているケースも見受けられます。同様に、年功賃金のことをメンバーシップ型雇用だとする誤解もあります。しかし、成果主義も年功賃金も賃金と人事評価に限った手法の一つに過ぎません。

 ジョブ型雇用は職務ありきで賃金が決まるのでそもそも評価不要ですが、マネジメント層の一部などでは成果主義の場合もあります。また、メンバーシップ型雇用でも成果主義の場合がありますし、必ずしも年功賃金だとは限りません。

 ただ、いま「ジョブ型○○」と呼ばれている取り組みの目的の一つは、年功賃金を崩すことにあります。年功賃金はメンバーシップ型雇用と相性が良く、人口も経済状況も右肩上がりを続けていた高度経済成長期のころには機能していました。

 しかし、人口は減少し経済状況も不安定な現在では、うまく機能しなくなっています。仕事で見合う成果が出せていないのに年功賃金で高年収を得ている、いわゆる“働かないおじさん問題”は象徴的です。年功賃金の見直し自体は、必要な改革に違いありません。

年功賃金で高年収を得ている「働かないおじさん問題」も深刻

 年功賃金とは、年齢や社歴が上がるにつれて能力も向上していく前提で運用されてきた賃金制度です。働き手の能力を精緻に見極めようとするのではなく、年齢や社歴で能力をひと括りにして賃金と紐付けてしまう、荒っぽい制度だと言えます。それを、能力を職務と紐付けて賃金を決める制度へと変更すれば、年功賃金から脱却することができます。

 しかしながら、「ジョブ型○○」という名称の下、雇用システムはメンバーシップ型雇用のまま、職務と能力とを紐付けた賃金制度を導入すると、強い人事権を保持したままの会社からの指示により、職務が替わるとともに賃金もコロコロ変わってしまうようなことが起きてしまわないとも限りません。

 この制度を恣意的に運用すると、追い出し部屋のような場所をわざわざ設置しなくても、賃金の低い“追い出し職務”に辞めさせたい社員を異動させて退職に追い込むような仕打ちが起きる可能性だってあります。

 その点、もし雇用システムを欧米のジョブ型雇用のように変えてしまえば、会社の意向で勝手に職務を変更するようなことはできなくなります。職務にこだわりたい人にとって、ジョブ型雇用は魅力的な制度です。

 ただ、会社は人事権を放棄しなければならず、社員もまた職務喪失や能力不足判明を理由に解雇される可能性が生まれ、メンバーシップ型雇用のように社員という立場が守られるような安定性は保てなくなります。

 一方で、従来の正社員のように職務が無限定だと、社員は人手が足りない時に他部署の職務を手伝ったり新規事業を立ち上げるなど、未経験でいまはできない職務であっても、OJTで一から覚えて新たなスキルを身につける機会が得やすくなります。

 そのように未経験から人材を育成できる仕組みがあるからこそ、これまでも日本企業は新卒層を積極的に採用し、見事に戦力化できてきました。それがジョブ型雇用だと、その職務ができることを前提に採用するため職務経験のない新卒学生は圧倒的に不利になり、即戦力に近いスキルを有するごく一部の学生を除き、いまのような形で就職することは、まずできなくなります。

 また、メンバーシップ型雇用だと社員の能力を見ながら会社の都合に応じて柔軟に社員を配置転換させ、管理職候補として複数職務に対応可能なジェネラリストを育成しやすくもなります。