日本企業にはこれまで人的資本投資をきちんと進めてこなかったところも多い。そして、今、人的資本経営に注目が集まる中にあっても、そうした企業がその状態を変えられない場合も多い。今回はアセットマネジメントOneの寺沢徹氏に、そうした企業が人的資本経営にどう向き合えばよいのか、投資家の視点から語ってもらった。長年運用会社で企業の責任投資を調査分析してきた寺沢氏だからこそ語れる「日本企業が人的資本への投資が十分でない理由」「企業価値向上のために人的資本を有効活用できる企業の特徴」「情報の開示のあるべき姿」などを紹介する。

シリーズ「人的資本経営の最前線」ラインアップ
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■「日本企業の人的資本経営がまだまだな理由」、投資家はどう見ている?(本稿)
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経営者の意識に残る「バブル崩壊」のトラウマ

――日本企業は人的資本への投資が十分でないといわれています。その原因は何でしょうか。

寺沢 徹/アセットマネジメントOne スチュワードシップ推進グループ エグゼクティブESGアドバイザー

1988年富士銀行(当時)に入行。後にみずほコーポレート銀行、みずほ銀行を通じて金利デリバティブや外国為替のトレーディングなどに従事。みずほ投信投資顧問の運用企画部長などを経て、2016年アセットマネジメントOne発足と同時に責任投資グループ長に就任。2022年より現職。

寺沢徹氏(以下敬称略) 人的資本に限らず、企業は財務、非財務を問わず自社の資産を有効活用して、成長させていかなければいけませんが、それがなかなかできていません。

 私が理系の大卒で銀行に入社したのは1988年で、その数年後にバブルが崩壊し、不良債権処理に追われました。このころの企業は、成長しなくていいから、とにかくつぶされなければいいという状態でした。経営者のマインドが現状維持、コスト削減にしか向かっていなかった時代だったのです。

 それから30年がたとうとしているのに、一部の経営者のマインドはそのままになっています。

 一方、海外はずっと成長を続けてきました。もちろん、日本でも成長を続けた企業はありましたから、そうでない日本企業への投資家の注目度は低く、放置されていた現実があります。

 本来であれば、全ての日本企業が資本コストを上回る利益を出していかなければいけないのですが、バブル崩壊以降、一部の企業は成長のための投資を優先課題としてきませんでした。その結果、非財務分野への投資をしてこなかった企業の停滞が問題となっています。

 昨今、非財務領域への投資がにわかに注目されつつある中、無形資産の代表的なものであるESGの中では、最初にGのガバナンスについての企業の取り組みが強化されました。

 そして、それを実行していく段階で、人的資本をいかに活用して企業の成長につなげていくかということがポイントになってきます。

 日本では賃上げムードが高まり、人材力の強化は岸田政権の注力分野でもあるので、日々ニュースに上がってきています。これが一過性の動きでなく、どの企業が継続的に取り組むのかを見ていきたいと思っています。