ウクライナ侵攻から得るべき教訓とは

 ただしアメリカの場合は、韓国や台湾を押さえているため、中露朝に対抗する橋頭堡(足掛かり)はすでに確保されているが、それがロシアにとっては、軍事基地を置いているクリミアや親露派勢力の強いドンバスだったということである。

 ウクライナ侵攻の国際政治をロシア側から見た場合、NATOはウクライナにおけるパワーバランスを逆転させるような現状変更を試みたことになる。この事情は、西側諸国が言っていることと真逆だ。

 このことは何を意味するのだろうか。

 それは、ウクライナの軍事力強化がロシアに対抗するための適切な方策だったのかどうかという問題意識である。ウクライナのNATO加盟問題は認められないというロシアの言い分に対して、欧米側はオープン・ドア・ポリシーと主権国家の自由を理由に、ロシア側からの新たな欧州安全保障に関する協議の提案(具体的にはウクライナのNATO非加盟など)に応じなかった。

 実際にはウクライナのNATO加盟は、仮にそれが実現したとしても、少なくとも10年以上は先のことだったのではないかと思う。NATO側もアメリカ側もそう認識していたはずだ。だとすれば、その猶予期間を用いてロシアとの間の信頼関係、すなわち欧州における安全保障の新たな体制や合意を形にするための交渉が可能だったはずである。

 事実ロシア側は、侵攻の3か月ほど前に、ウクライナのNATO非加盟を含め、NATO側の譲歩を求める法的合意に向けた交渉を提案していた。西側諸国はロシア側の危機意識や意図を読み誤ったことによって、ロシアにウクライナ侵攻を踏み切らせた可能性を十分に検討すべきではないだろうか。

 つまり、ウクライナ侵攻から得るべき教訓とは、ありうべき侵攻に備えて軍備を増強することにその本質があるのではなく、むしろそうした侵攻を招き寄せないための適切な外交の重要性なのである