国家安全保障における外交力の重要性

 その意味では、2022年12月の防衛三文書中、最上位政策文書とされる国家安全保障戦略において、トーンが防衛力の強化に偏っているように見えることが懸念される。

 同文書では国家安全保障上の目標として「国際関係における新たな均衡」をインド太平洋地域で実現すること、一方的な現状変更を容易に行い得る状況の出現を防ぐこと、安定的で予見可能性が高く、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の強化、多国間で協力して国際社会が共存共栄できる環境を実現することなどが挙げられている。

 これらの中で、安定的で予見可能性の高い国際秩序の強化や、国際社会が共存共栄できる環境の実現といった目標は、外交政策である。

 そのうえで、我が国が優先する戦略的アプローチの第1に、「危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化するための外交を中心とした取組の展開」が挙げられているが、そこに挙げられた取り組みは日米同盟の強化、同盟国、同志国との連携強化、周辺国・地域との外交などであり、日本の外交力の体制強化につながる具体的な施策など、新しいものは何も見られない。

 一方、アプローチの第2として挙げられる防衛体制の強化では、防衛力の抜本的な強化として、反撃能力の保有、予算水準GDP2パーセント目標、防衛装備移転制度の見直しの検討、生産・技術基盤の強化、人的基盤強化といった項目が挙げられており、明らかに防衛力の強化に偏っている。

 ロシアによるウクライナ侵攻から、もっぱら防衛力(軍備)強化という教訓のみを引き出すのは、短絡的である。

岸田文雄首相は防衛費を2027年度にGDP比2%に増額することを決めた。写真は2021年11月の自衛隊観閲式で10式戦車に搭乗した岸田首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)