バランス崩れたロシアとNATOとの緩衝地帯
ロシアがウクライナ侵攻に踏み切ったのは、2014年のウクライナ政変以後、ドンバスの分離派武装勢力を武力によって制圧しようとウクライナ政府が軍事力強化を進めていった結果でもあった。
この軍事力強化はウクライナがロシアの影響力から脱しようとして行った単独行動ではなかった。ウクライナの軍事力強化を支援したのは、何よりもアメリカやNATOだったのである。
つまり、ロシアによるウクライナ侵攻の軍事的背景には、ロシアとNATOとの緩衝地帯であったウクライナにおけるバランスが大きくNATO側に傾き、さらにはウクライナのNATO加盟に向けた動きによって均衡が崩されようとしたことに、ロシアが強い危機感を抱いたことがある。その結果、座して待つよりは、といってロシアは侵攻に踏み切ったのだ。
ウクライナの軍事力は、将来的にNATOに加盟する場合にはNATOの軍事力となるわけで、ウクライナの増強しつつある軍事力がNATOと結びつくことが、ロシアにとっては自国の安全保障環境にとっての最悪の事態として、安全を脅かすものとなるとの認識があった。
仮に日本の周辺に引き寄せて考えれば、国家防衛戦略が問題と認識する中国、ロシア、北朝鮮の三国が、日本(と韓国)を仮想敵国とした集団防衛のための同盟を結成し、北朝鮮を前線基地として北朝鮮の軍事力強化を試みるといったことになるだろうか。
この時点で、日本と韓国には単独で対抗する力はすでにないが、その後ろ盾であるアメリカが韓国や台湾への軍事的なコミットメントを著しく高めることは十分に考えられる。