パワハラ上司に自覚を期待しても無駄

津野:ある中小企業の事例ですが、その会社の社員は作業着を着て仕事をしています。作業着の汚れ具合に対する基準が曖昧で、「あの人は汚い、臭い」といういじめが起こってしまった。

 そこで社長が、異なる汚れ具合の作業着を3つ展示し、社員が「どのレベルの汚れ具合だったら洗濯するべきか」投票を行いました。すると、ほとんどの人が同じレベルの汚れ具合を選んだ。それ以降は、「このレベルまで汚れたら作業着を洗濯しましょう」というルールが職場で徹底されるようになりました。

 このように、不文律や曖昧な基準が多い職場ではパワハラが起こりやすい。従って、皆で話し合って「この基準であれば納得できる」という基準を決め、明文化したルールを作っていくことが求められます。

 ただ、大して必要でもないルールが多い職場では、逆に「ルールを守らせること」が目的となる。「ルールを守らない人にはペナルティを与えてもいい」という考えが広まり、いじめやハラスメントにつながることがあります。

 従業員同士で意見の対立が起こりそうなことに関しては、皆の意見を取り入れた上でルールを明文化する。逆に、必要でないルールは撤廃する。個々人の価値観が投影されるような不文律は作らない。そのような対応が必要だと思います。

──パワハラ対策の一つとして、「パワハラ行為者に『自ら気付いてもらう』という幻想を捨てる」と書かれていました。パワハラ行為者にどのような対応をすべきなのか、教えてください。

津野:パワハラ行為をしたとして訴えられた人を集め、ヒアリングを行った研究があります。

 パワハラ行為者に対し「あなたはパワハラをしましたか?」と聞くと、90%の人が「していない」と回答しました。さらに、「自分が部下に対して行った言動は正当なものだったか」という問いに対しては、100%の人が「正当だった」と答えました。つまり、パワハラ行為者は、ほとんど自覚がないと言えます。

 自覚のない人に対して「あれはパワハラだよ」「やめた方がいいよ」などと言っても伝わらない可能性が高い。特に、ダークトライアドのうち、サイコパシーは他者に対する共感能力が欠落しています。そういう人に対して「部下に対して優しく接しましょう」と言っても、理解できない。何をどうしたら優しい接し方になるのか、ということがわからないのです。

 そういう人に対しては、会社の方針として「してはいけないこと」が何であるかをきちんと説明する。そして、それを行った場合には懲戒処分されるというところまで理解してもらう必要があります。

 さらに、彼らがパワハラをした際には、「〇〇という発言は、相手に対してこのようなダメージを与えるので、このような言い方にしましょう」という代替案も一緒に説明する。無自覚にパワハラ行為をしている人に、代替案を自分で考えさせることは困難です。なぜしてはいけないのか、代わりに何をすればいいか、具体的な指導を行う必要があります。

──書籍終盤で、「パワハラ上司にならない方法」を7つ紹介されていました。7つのうち、先生が特に重要と認識していることを教えてください。