パワハラ対策以前の問題がはびこる日本企業
津野:実際の相談事例を見ていると、「部下に対して高い期待水準を持つ上司」によるパワハラが多いですね。努力して成功した自身の経験を部下に求めてしまう。そのような人は、一般的に仕事ができ、成果も上げているため、社内ではなかなか処分されません。処分されずに野放しにされるため、被害者が続出する。
他に、放任型の上司も日本では多く見られます。
例えば、Aさんが後輩に対してハラスメントをしているとします。Aさんの上司はハラスメントに気付いてはいるのですが、面倒ごとに首を突っ込みたくないので介入しない。それにより、Aさんは自身のハラスメント行為が上司から「承認を受けたもの」であると勘違いし、ハラスメントをエスカレートさせます。
放任型上司は何もしません。何もしなければ問題になることもないと思っている点が放任型上司のやっかいなところです。
海外では、職場のパワハラ対策は義務化されています。
北欧では、日本で言うところの労働基準監督署のような機関が、各企業がパワハラ対策をしているのかを定期的にチェックしています。対策が不十分と判断された場合、ホームページで企業名が公表されてしまう。それが当たり前なので、パワハラを放任するような上司もいません。それらしき行為があったら、周囲の誰かが介入することが当然になっています。
──日本において、労働基準監督署が各企業のパワハラ対策に目を光らせるということは難しいのでしょうか。
津野:難しいですね。労働基準監督署は、そもそも労働基準法をきちんと守らせることで手一杯ではないでしょうか。
日本には、労働基準法さえ守らない経営者がたくさんいます。サービス残業、朝礼のための定時開始30分前の出勤。これらはすべて、本来は労働時間に組み入れ、賃金を支払わないといけないものです。
しかし、あまりに当たり前のように行われていて、多くの労働者はおかしいと気付きません。仮に気付いたとしても、告発したり、ストライキをしたりと行動に移す人はいません。各企業のパワハラ対策に目を光らせる前に、やるべきことが山積みのように感じられます。
──効果的なパワハラ対策を進めるためには、従業員に役割の曖昧さを感じさせないようにすること、明確なルールを作ることが必要と書かれていました。一方で、2020年度厚生労働省ハラスメント実態調査では、「遵守しなければならない規則が多い/高い規律が求められる職場」においてパワハラが発生しやすい、ということが明らかになっています。
津野:確かにこの2つは、一見すると矛盾しているように感じられるかもしれません。
ここで言う「ルール」や「規則」は不文律であるかそうでないか、という点が重要になります。