差別とハラスメントは何が違うか

津野:海外の先進国では、差別やハラスメント自体を禁止する法律が既に存在しています。しかし、日本にはハラスメント行為そのものを禁止する法律は一切なく、企業に対してハラスメント防止対策を義務付ける法律しかありません。これが、いわゆるパワハラ防止法にあたります。

 ハラスメントや悪質な差別を禁止する法律がないという点で、日本は非常に遅れています。パワハラ防止法は、その遅れを取り戻す第一歩に過ぎない、という印象を持っています。

海外では、パワハラが大問題に発展することも少なくない。写真はパワハラが発覚した大韓航空の元専務(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

──「ハラスメント」と「差別」の違いはどのようなものなのでしょうか。

津野:日本人で、ハラスメントと差別の違いをきちんと理解している人は少数です。

 差別は、個人の特性を理由として、その人に対し不利益を被るような扱いをすること(不利益取扱い)です。個人の特性を理由に、採用しない、昇進させない、解雇する等の不利益を与えることが差別に該当します。特性としては、人種、 肌の色、性別、性的指向、年齢、身体・精神の障害、婚姻状況、家庭や介護負担、妊娠、宗教、政治的意見、血統や系統等などが挙げられます。

 2018年に、一部の私立大学医学部が、女性や浪人生に対して不適切な得点調整を行い、不合格にしていたことがニュースになりました。あれは、明らかに女性や浪人生に対する差別です。

 また、2023年2月初旬には、中小企業のリソース不足を理由に「結婚による退職や、妊娠出産で長期休業をとる可能性の高い若い女性は雇用できない」と主張する女性経営者のツイートが波紋を呼びました。

 このツイートには賛同の声が多く寄せられました。

 しかし、この女性経営者の行為も、れっきとした年齢と性別に対する差別です。国連は、人種差別撤廃条約や女子差別撤廃条約などにより、加盟国に差別を禁止する法整備を求めています。差別は本来、受け手がそれを許容するかの議論さえ不要な違法行為です。明らかな差別を、ツイッター上で個人の価値観によって、いいか悪いか議論していること自体がおかしいと言えます。

 ハラスメントは、不利益取扱いとまではいかない威圧的・敵対的行為によって、就業環境が害されることを意味します。

 日本では、差別とハラスメントが一緒に議論されがちですが、基本的には、差別はただちに是正させるべきものであり、ハラスメントは深刻度によって厳正に処分されるべきものです。日本人一人一人が、差別とハラスメントについてもっと知識をつける必要があります。

──なぜ日本には、ハラスメントや差別を禁止する法律がないのでしょうか。