緒方の体に刻まれた「太」の入れ墨
小野:松永は最初の妻と結婚して間もなく緒方純子とも交際を始めている。最初の妻に対してどこまでの暴力があったのか、間接的な証言でしか明らかになっていません。
「このままでは殺される」と判断したこの女性は松永の元から子供を連れて逃げ出し、その後、離婚が成立している。命を奪われる前に逃げ出すことができたという意味では、彼女はまだ幸運だったと言えるかもしれません。
──事件の犯人である松永太と緒方純子は高校の同級生で、男女の関係にあり、2人の間には子供もいます。松永太が緒方純子を征服して思い通りに動かしていたという印象を受けました。
小野:裁判の中で明らかになったことですが、松永太は緒方純子が初めて交際した男性なのです。だから彼女は強い思い入れを持っていたのではないでしょうか。松永はそこを利用した。
松永は緒方にも暴力を振るいましたが、「お前のためにやっている」という言い方を必ずしました。緒方も「暴力を振るわれるのは私が悪いからだ」という思い込みを持っていた。松永は入れ墨やタバコの焼き印で「太」という自分の名前を緒方の体に刻印しました。彼女としては松永しかいない、という状況になっていたと思います。
──他の女性たちは皆逃げ出しましたが、緒方だけはずっと右腕のような形で松永についてきて、その後、松永が他の女性に接近する時も手伝っています。
小野:その段階では、彼女はすでに殺人にまで手を染めているのです。「もう後戻りはできない」という心境だったのでしょう。しかし、緒方が何もかも被害者というわけではなく、緒方自身も松永と共に犯行に手を染めていました。
緒方が大分県の湯布院に逃げ出したことがありましたが、連れ戻されてひどい暴力を受けている。緒方と少女が郵便物を出しに行った帰りに、北九州市の門司駅というところで再び逃亡を図りますが、少女が緒方を追いかけて連れ戻し、再び酷い暴力を受けている。もはや自分は逃げることはできないという諦めの心境に至っていたのでしょう。