囚われていた緒方が自供し始めた理由

──緒方純子が細かく事件の数々について自供したことにより、捜査は一気に進みました。もし、緒方も松永同様に黙秘を貫いていたら今頃どうなっていたとご想像されますか。

小野:もし緒方の自供がなかったらという仮定に立つと、監禁されていた少女の証言に頼る捜査になります。未成年の彼女の証言がどこまで頼りになるのか、ということが争点になったでしょう。

 ただ、この少女の記憶はかなりハッキリしていて、遺体の解体に使った包丁を捨てたという場所から本当に包丁が見つかり、その包丁に書かれていた文字まで彼女は記憶していました。

 この事件は7件の殺人で起訴されており、内6件は裁判で殺人と認められ、1件は傷害致死という判決が出ました。緒方の証言がなければ、7件全部が殺人とは認められなかったかもしれませんが、極刑にまで持っていけるだけの起訴はできたのではないかと思います。

 また捜査員は当初、緒方よりも先に松永が自供すると予想していました。緒方が語らなければ、松永の方が先に自分を庇うために緒方を実行犯だとする自供を始め、矛盾点を突かれていたかもしれません。

──なぜ緒方は細かく自供したのだと思われますか?

小野:少女の証言は警察を通してマスコミに流れ、松永や緒方にも届くはず。捜査員からも少女の証言については聞かされていたと思います。その中には、緒方が記憶している事件の真相とは異なる部分(間違った状況説明)もあったようです。

 自分の親が殺害された場面など、自分の記憶とは異なる形で世の中に認知されてしまうことが我慢ならなかったという見方があります。事件の真実を正しく伝えたいと思ったようです。自供すれば、自分も死刑になる可能性がある。でも、弁護人の言葉によれば、緒方は自供することに躊躇はなかったようです。

 緒方が自供を始めたことに焦りを感じた松永は「死刑になりたくないから助けてくれ」というメッセージを弁護人を通して緒方に伝えました。このメッセージを聞いて、逆に緒方はより覚悟を固めたようです。松永に愛想を尽かしたのです。