最初の被害者を死に至らしめたプロセス
小野:松永と緒方が北九州市で部屋を借りようとしたときに入った不動産業者の窓口担当者が広田由紀夫さんでした。松永と緒方は何カ所か部屋を借りたので、広田さんからするといいお客だったのです。松永はとても人当たりがいいですから、だんだん仲良くなり、一緒にお酒を飲んだりするようになっていく。
松永は広田さんに「コンピュータを使った競馬の予想の会社をやれば儲かる」と起業をもちかけ、そそのかされた広田さんは勤めていた会社をやめて松永と事業を始めます。当時、広田さんには内縁の妻がいましたが、松永は彼女と別れさせ、広田さんをますます社会から隔絶させていきました。
松永は広田さんから仕事における不満を聞き出し、かつて彼が居室の消毒作業をしていないのに、したように見せかけて顧客から作業代金を受け取って小遣いを稼いでいたなどの、彼にとって弱みになる情報を引き出していました。
それを後で本人に突き付けて脅迫の材料にするのですが、その時に本人に事実を自分で認める念書を書かせているのです。こういった方法で広田さんを追い詰め、逃げられなくしていく。同時に暴力行為も始まっていく。
「うちから学校に通えばいい」などと言って、当時小学生だった広田さんの娘の清美さん(後に警察に駆け込んだ少女)を松永と緒方は預かります。娘が人質となり、広田さんはますます松永と緒方に歯向かえなくなる。そうやって広田さんからどんどんカネを引っ張り出していくのです。
松永は「ワールド」という布団の訪問販売の会社を経営していた時期に、従業員への体罰として、体に電気を通す虐待行為(電気コードに金属製クリップを付けた道具で体に通電する暴行)を行っていたのですが、これを広田由紀夫さんにも行うようになりました。
次第に、広田さんは衰弱し、これ以上お金を借りる術もないという段階に至ると、松永は広田さんが死ぬように仕向けていく。事件化されたものでは、広田由紀夫さんが最初の殺人の被害者です。
松永や緒方は広田さんに対して食事の量や睡眠時間を制限したり、ずっと立っていることを強制したり、様々な辱めの行為を強いたり、さらに、想像を絶する暴力行為を長期間にわたり行いました。